カハネ主義
カハネ主義(カハネしゅぎ、Kahanism)とは、ユダヤ人の政治思想の一つである。
概要
カハネ主義の名は、ラビ・メイル・カハネに由来する。メイル・カハネは存命時代、イスラエルにおいて極右政党「カハ」を創設している。非ユダヤ人からイスラエル市民権を剥奪する法、ユダヤ人と非ユダヤ人との婚姻や性交渉を禁止する法の提出などを目指していた。これが人種差別的であるとカハネは批判され、カハ党も1985年に成立した反人種主義法により、議会から締め出された。
メイル・カハネは1990年に暗殺されるが、メイル・カハネの息子であるビニャミン・ゼエヴ・カハネがカハを「カハネ・ハイ」(カハネは生きている)と改め、政治活動を行っていた(ビニャミンも2000年に暗殺される)。
1997年、カハネ・ハイは米国政府によりオウム真理教などと共にテロ対策及び効果的死刑法に基づく「テロ組織」に指定された[1]。 2022年に指定解除されたが、米国内での資産凍結等が可能な「特定グローバルテロリスト」(SDGT)指定は継続されている[2]
カハネ主義とは、カハネの持っていた過激思想のことである。「我々は神に選ばれた民であり、我々が滅びなかったのは明白な神との契約があったからだ。我々は異教徒と平等では断じてない。我々は優れているのだ」というカハネの主張のとおり、一種のユダヤ民族至上主義と言い表すこともでき、レイシズムの一種であるとみなされている。カハネ主義者は特にアラブ人、イスラム教徒を敵視しており、壁に「アラブ人どもを毒ガス攻撃しろ!」などと落書きしたり「アラブ人に死を」とアラブ人の墓に落書きしたりしている。これらの行為や人種差別的思想からカハネ主義者は「ネオナチ」「ユダヤ過激派」とも表現されている。
カハネ主義者はユダヤ防衛同盟(Jewish Defence League)という組織を1970年代に立ち上げ、現在に至るまで反ユダヤ主義、反シオニズムとの闘争と称して、テロ事件、暴力沙汰を引き起こしており、穏健派のユダヤ人団体「名誉毀損防止同盟」などから問題視されている。また、イスラエルの治安機関は、ヒズボラ、ハマースなどのイスラーム過激派と共にユダヤ過激派をテロ組織と見なし、取締りを行ってる。
カハネ主義は現在においてもユダヤ機動部隊のウェブサイトなどで根強い支持がある。
脚注
- ^ “治安フォーラム1997年12月号(公益財団法人 公共政策調査会 板橋功『第28回海外安全対策会議資料2』添付資料)”. 2023年12月10日閲覧。
- ^ 大内清 (2022年5月21日). “米、オウムなど5団体の「外国テロ組織」指定解除”. 産経新聞. 2023年12月10日閲覧。
関連項目
- イスラエル我が家 - アラブ人の市民権剥奪などを訴える極右政党。現在議会第三党
- アヴィグドール・リーベルマン - イスラエル我が家の現党首で、若い頃メイル・カハネに傾倒していた
- モーシェ・ファイクリン - 非ユダヤ人の国外退去などを主張するイスラエルの右翼政治家。ただし自身はカハネ主義者ではないと述べている
- マクペラの洞窟虐殺事件 - カハネ主義者が1994年に引き起こしたムスリムの大量虐殺事件
- ヴィクター・ヴァンシアー(ハイム・ベン・ペサフ) - ユダヤ機動部隊スポークスマンで元ユダヤ防衛同盟議長。過去に数々のテロを行ってきた
- イガール・アミル - イツハク・ラビンの暗殺犯でありカハネ主義者
- ヤコブ・テイテル - パレスチナ人や和平派ユダヤ人学者などに対して数々のテロを行った過激派の人物。2009年11月3日に逮捕されたが、12年間野放し状態であった。
- エレツ・イスラエル・シェラヌ - ネオ・カハニズム政党。現在1議席保有している
- ミハエル・ベン=アリ - エレツ・イスラエル・シェラヌ所属のクネセト議員。カハネを尊敬している
- バールーフ・マーゼル - 「現代イスラエル最大の大物右翼」と形容されるカハネ主義者。同性愛者や左翼系ユダヤ人などの殺害を公然と主張している
外部リンク
- ハイム・ベン・ペサフ公式YouTubeチャンネル - ユダヤ防衛同盟構成員がスポークスマンを務めているYouTubeチャンネルであったが締め出された
- ユダヤ機動部隊公式サイト - 現存するカハネ主義団体のウェブサイトおよびフォーラム。実態はともかく「反テロ」、「反レイシズム」を標榜している団体