パン (撮影技法)
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/9c/Pan1.gif)
撮影技法におけるパンはカメラポジションを固定しカメラを(水平に)振るカメラワークである[1][2][3][4]。PANとも表記され[3]、パンニング(英: panning)とも呼ばれる。
概要
カメラは位置と角度を変えることで異なる対象を撮影できる。このうち位置(カメラポジション)を固定し角度を変えるカメラワークが(広義の)パンである[1][3][4]。特にカメラを水平に振るのを(狭義の)パンと呼ぶ場合もある(垂直はチルト)[1][2]。
パンではカメラと静止物体の位置関係が変化しないため、画に写る物体の領域は変化しない。また画角から外れる・入ることで写る物体が変わる(⇒ #映り方)。
パンは静止画撮影(スチル)と動画撮影(ムービー)の両方に適用される。スチルの場合は静止した物体の残像が映る。ムービーの場合は静止した物体を横切る構図あるいは移動する物体を追いかける構図になる。
チルト
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e5/Tilt1.gif)
チルト (撮影技法)(英: tilt)はカメラポジションを固定しカメラを垂直に振るカメラワークである[1][5][6]。ティルト[5][6]、縦パン[7]とも。
チルトは広義のパンの一種である。カメラを上下どちらに振るかでチルトアップとチルトダウンに細分化される。見上げ・見下ろしの構図に使われるため頻出のカメラワークである。
チルトアップ
チルトアップ(英: tilt up)はカメラポジションを固定しカメラを上に振るカメラワークである[8][9]。パンアップ(P.U.)とも[8][9]。
チルトアップはチルトの一種であり、広義のパンの一種である。アイレベルから高い建物を見上げる、グランドレベルから立っている人の顔を見上げる、飛翔するロケットを目で追う、といった構図で用いられる。
チルトダウン
チルトダウン(英: tilt down)はカメラポジションを固定しカメラを下に振るカメラワークである[10][9]。パンダウン(P.D.)とも[10][9]。
チルトダウンはチルトの一種であり、広義のパンの一種である。アイレベルから足元を見下ろす、展望台から地面を見下ろす、谷底へ転落するボールを目で追う、といった構図で用いられる。
映り方
![](http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/6/66/PAN_view.png/400px-PAN_view.png)
パンでは物体の位置が変動しかつ同一面が異なる大きさで映る(図参照)。
これはパンがカメラポジションを固定しカメラアングルを変えるカメラワークであることによる[1]。パンでは視点と対象がともに不動であるため投影線も不変であり、これにより物体の遮蔽関係は維持される[11]。図を例にとると、パンしても側面がみえるようにはならない。一方でアングルが変化することで投影面の角度が変化し、これにより同一面の投影サイズが変化する。
パンによる見え方の変化はカメラと対象の距離によって異なる。近距離(広角)ではフレーム内を物体が動くためにそれなりのパン角度を要するため投影面の角度が大きく変化し、対象内でも投影面との距離に差がつく。これにより対象の像が大きく変化する/歪む(図左)。一方で遠距離(望遠)では少しのパン角度で像がフレーム端まで動くため投影面の角度がほぼ変わらず、投影面との距離もほぼ変わらない。これにより対象の像は単に横へシフトしたように見える(図右)。
歴史
1900年のパリ万博において、エジソン・マニュファクチャリング・カンパニーより派遣されたジェームス・H・ホワイトは、120°ほどのパンニングを駆使した撮影に初めて成功し、この技法をPanoramaと命名する[要出典]。
用途
移動中の被写体を撮影する場合にパンが用いられるが、静止中であってもフレームに納まりきらない被写体を撮影する際にも使用される。
CGやアニメなどの、撮影を伴わない映像においても、パンという表現は使用される。 同じシーンに対して同様のパンを3回連続で行う演出方法は、アニメ作品『あしたのジョー』において多用され、現代アニメにおいて典型的な演出手法となっている。この手法は俗に「三段パン」と呼ばれる。
写真(スチル)の場合でも、移動する被写体を追いながら撮影(流し撮り)すればカメラの向きを振ることになり、その操作もパンと呼ぶ。
関連用語
固定したカメラで、移動する被写体をフレーミングで追従し撮影することを「フォロー・パン」と呼ぶ。これは動くものを目で追う動作をカメラでおこなっているのと等価である[12]。被写体と共にカメラそのものが移動する撮影手法・そのための台車をドリーという。カメラを固定して動かさない撮影技法を「フィクス」と呼ぶ。
脚注
- ^ a b c d e "(B) パン・チルト:カメラを水平方向または垂直方向に回転させる撮影技法 ... (B)はカメラの姿勢は変化するが位置は固定である." 坂井 2022, p. 192 より引用。
- ^ a b "雲台をカメラの鉛直軸まわりに回転 ... 「パン」... させながら被験者を撮影" 大島 2022, p. 830 より引用。
- ^ a b c "パン「PAN」とは ... カメラ自体は移動せず、レンズの向きを変化させることで被写体を撮影することである。" 小椋 2015, p. 3 より引用。
- ^ a b "PAN(パン ... 位置を固定した状態でカメラの首を振らせる撮影方法。" 宮川 2013, p. 8 より引用。
- ^ a b "雲台をカメラの ... 左右軸まわりに回転 ... 「ティルト」... させながら被験者を撮影" 大島 2022, p. 830 より引用。
- ^ a b "ティルト カメラ位置は固定で首を縦に振るカメラワークです。" 金野 2020 より引用。
- ^ "実写ですと ... カメラを縦に振るTILT(ティルト)... アニメの場合、縦方向の場合は、縦パン" 以下より引用。泉津井. (2016). もっとアニメを知るための撮影講座[泉津井陽一]第4回 カメラワークを考える. WEBアニメスタイル.
- ^ a b "見上げるように上方向に振るのをティルトアップ(パンアップ)... と呼びます。" 金野 2020 より引用。
- ^ a b c d "実写用語 ... ティルトアップ/ダウン…カメラ位置固定で上下に首を振る(アニメでは PANUP/DOWN と同義)" 宮川 2013, p. 42 より引用。
- ^ a b "見下ろすようにした方向に振るのをティルトダウン(パンダウン)と呼びます。" 金野 2020 より引用。
- ^ "カメラの回転中心と投影中心とがずれ ... パン,チルトさせることにより ... 物体の見え方が変わり,回転前には見えていた/見えなかった部分が回転によって見えなくなる/見えるようになる" 以下より引用。松山. 日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業 平成8年度〜平成12年度研究成果報告書 分散協調視覚による動的3次元状況理解. 2024-01-06閲覧.
- ^ "「フォローパン」は「動くものを目で追う」というごく自然な、人間の目に近い動きである。" 小椋 2015, p. 4 より引用。
参考文献
- 宮川, 淳子 (2013), 撮ま!〜アニメーターのための撮影基礎知識〜
- 大島, 雄治 (2022). “3次元座標が未知の固定点と複数のカメラで撮影した未知の対応点を用いたパン - ティルトカメラの校正手法に関する研究”. 体育学研究 67: 829–844. doi:10.5432/jjpehss.22051 .
- 小椋, 久雄 (2015). "映像表現における移動撮影(パンを含む)の効果の検証". 尚美学園大学芸術情報研究 (24): 1–14.
- 金野, 義徳 (2020). “ゼロから始めるMAYAアニメーション 第6回(最終回):カメラを動かしてみる。”. AREA JAPAN .
- 坂井, 甚太 (2022). "映像作品のカメラワーク数値化に向けたカメラと被写体の位置姿勢推定法". 研究報告エンタテインメントコンピューティング. 2022-EC-65 (36): 1–6.