ブタノール

ブタノール
構造式 1-ブタノール
一般情報
IUPAC名 1-ブタノール
別名 n-ブチルアルコール
ノルマルブチルアルコール
ノルマルブタノール
n-ブタノール
分子式 C4H10O
分子量 74.1
形状 無色液体
CAS登録番号 71-36-3
SMILES CCCCO
性質
密度 0.81 g/cm3, 液体
相対蒸気密度 2.6 (空気 = 1)
水への溶解度 7.7g/100 mL (20℃)
融点 −90 °C
沸点 117 °C
粘度 3 cP (25℃)
出典 国際化学物質安全性カード
Kis-net

ブタノール(butanol)は化学式 C4H10Oで表される炭素数4の一価アルコールの総称である。ブチルアルコール(butyl alcohol)ともいう。

概要

ブタノールまたはブチルアルコールと呼ばれる一価アルコールには、1-ブタノールn-ブチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノールイソブチルアルコール)、2-ブタノールsec-ブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(2-メチルプロパン-2-オール, tert-ブチルアルコール)の構造が異なる4種があり、そのうち2-ブタノールは不斉中心をもち、(R)-2-ブタノールと(S)-2-ブタノールの2種の立体異性体が存在するため、計5種がある。

ブタノール類はいずれも可燃性であり、日本では消防法により危険物第4類(引火性液体)第2石油類に指定されている。代表的な1-ブタノールは溶媒燃料としてよく用いられ、他の異性体は香料医薬品などの製造原料として用いられる。

異性体

1-ブタノールの構造異性体にはアルコールとして、第1級アルコールの2-メチル-1-プロパノール、第2級アルコールの2-ブタノール、第3級アルコールの2-メチル2-プロパノールが存在する。アルコール以外では、ジエチルエーテルを始めとして3種類のエーテルも構造異性体である。他のアルコールの場合と同様に、構造異性体はそれぞれ化学的性質が異なり、物性もそれぞれ異なる。

2-ブタノール
別名:sec-ブチルアルコール、s-ブチルアルコール
不斉中心をもつので(R)-2-ブタノールと(S)-2-ブタノールの2種の立体異性体が存在する。
二級アルコール
沸点:100℃
水への溶解度:260g/L
光学活性を持つ
2-メチル-1-プロパノール
別名:イソブタノール、イソブチルアルコール、i-ブチルアルコール
一級アルコール
沸点:108℃
水への溶解度:100g/L
2-メチル-2-プロパノール
別名:tert-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール
三級アルコール
沸点:83℃
融点:25.4℃
水への溶解度:任意の割合で水と混合しうる。これはヒドロキシ基の親水性とアルキル鎖の疎水性のバランスによるものであり、アルコール一般の性質として説明できるものである。詳しくはアルコールの項を参照のこと。
n -ブチルアルコール
(一級アルコール)
sec-ブチルアルコール
(二級アルコール)
イソブチルアルコール
(一級アルコール)
tert-ブチルアルコール
(三級アルコール)

いずれのブタノール類も生体物質であり広く生物体の中では少量存在する。また、他のアルコール類と同じく、多量では毒性を発現するので飲用にはならない。

利用

1-ブタノール(工業的には一般にノルマルブタノールと呼ばれる)は有機化学繊維生産過程で溶媒として、あるいは他の化合物生産の原料として幅広く用いられる。また塗料用シンナーとして、揮発性の小さい溶剤としてカラー塗料等にも用いられる。またブレーキ液などにも用いられることがある。また、香料のベースとして用いられることがあるが、その香料自体はアルコールの匂いが非常に強いものである。1-ブタノールはエステル原料としても重要である。もっとも需要が高いのは、硫酸触媒の下で酢酸と合成して、有機溶剤酢酸ブチルとする用途で、他に、合成樹脂の改質剤であるアクリル酸ブチルフタル酸ジブチルなどの用途も大きい。

燃料としての用途では、ブドウ糖トウモロコシ由来の混合ブタノールやイソブタノールがバイオ燃料として注目されている。アメリカ合衆国では、すでにエタノールを10%配合したE10ガソリンが普及し尽くし、高エネルギーにより、さらに高い配合比が可能で、ガソリンと直接混合可能なブタノールに置き換えが始まっている[1]

2-ブタノールあるいは2-メチル-2-プロパノール(工業的には一般にイソブタノールと呼ばれる)もエステル原料になり、化成品の中間体原料として重要である。また、2-ブタノールは酸化することでメチルエチルケトンの原料として、さらに過酸化水素と反応させてメチルエチルケトンペルオキシドとするなど、工業原料として用いられる。また、2-メチル-2-プロパノールは凍結防止剤[要曖昧さ回避]アンチノック剤として利用されることもある。例えば、グッドイヤー社はガソリン、2-メチル-2-プロパノール、水からなる代換ガソリンが、ガソリンエンジンの有害廃棄物を大幅に低下させることを報告している[2]

ブタノール塩は他の化学物質の前駆体となる。例えば、2-メチル-2-プロパノール (tert-ブチルアルコール) のアルカリ金属の塩はtert-ブトキシドと呼ばれる。

生産

1950年代から、ブタノール類の多くは化石燃料から生産されてきた。工業的には一級アルコールを得る方法として、

  1. プロピレンヒドロホルミル化して得られるブチルアルデヒドを還元することで1-ブタノールと2-メチル-1-プロパノールが生成する。一般的に生成比は10/1程度で1-ブタノールが主生成物となる。ブタノールやブチルアルデヒドの二量化及び還元で得られるオクタノールオキソ法(ヒドロホルミル化)で得られるアルコールであるため、工業的にはしばしばオキソアルコールと呼ばれる。
  2. アセトアルデヒドアルドール縮合クロトンアルデヒドとし触媒による水素添加で1-ブタノールとする。
  3. 改良Fe(CO)5触媒でプロピレンと一酸化炭素と水とを反応させて1-ブタノールと2-メチル-1-プロパノールが生成する。(Reppe法)

などが存在する[3]

また、二級アルコールは相当するオレフィンを酸触媒下で水付加することで製造する。すなわち、1-ブテン2-ブテンも水付加により2-ブタノールを与える(マルコニコフ則を参照のこと)。また、イソブテン硫酸触媒にして水付加することで、2-メチル-2-プロパノールが製造される。

ブタノールはバイオマス発酵により生産することも可能である。デュポン社、BP社などがバイオブタノールの研究を行っており、優れた燃料としての利用が考えられている。特にガソリンに添加する用途ではアメリカ合衆国にデュポン、BPが合弁でブタマックス社を設立、初の商業プラントがフル稼働しており、ゲヴォ社もトウモロコシを原料に生産を開始した[1]

工業製品の合成ブタノールの2013年の日本国内生産量は、395,221 t、自社消費量は 251,254 t、出荷量は 145,349 t であった[4]

参考文献

  1. ^ a b 「バイオブタノール 米で商業生産“離陸” バイオエタノール代替へ」『化学工業日報』、2014年8月27日p3、東京、化学工業日報社
  2. ^ K. Weissermel, H.-J. Arpe, 『工業有機化学』, 東京化学同人(1978) ISBN 4-8079-0142-7
  3. ^ K.Weissermel, H-J Arpe, 『工業有機化学』, 東京化学同人(1978) ISBN 4-8079-0142-7
  4. ^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編(平成25年) - 経済産業省

関連項目