マテバ

マテバイタリア語: MA.TE.BA.:Macchine Termo-Balistiche[注釈 1][注釈 2])はイタリアの食品機器製造会社が展開していた銃器の製造・販売ブランドである。

当項目では主に銃器製造業としての視点から記述する。

概要

イタリアパヴィーアに存在した機械製造会社で、1950年代より主にパスタ製造用の混練機器を手掛けたが[1]、主業の食品機器製造よりも副業の銃器製造部門で著名で、設計主任のエミリオ・ギゾーニ(Emilio Ghisoni)(伊語版)の設計した独自の機構を持つ回転式拳銃の開発・製造元として知られる。

銃器メーカとしては主に回転式拳銃を設計・製造し、他にアメリカ製の自動拳銃ポンプアクションライフルクローンモデル[注釈 3]の製造を行っていた[注釈 4]

歴史

マテバ社はイタリアパヴィーアの小規模な食品機器製造工場を母体として創業された。食品機器製造業としての創業者のギゾーニ(Ghisoni.ファーストネーム不明)が1956年に死去すると、息子のエミリオ・ギゾーニは大学を中退して事業を引き継ぎ[1]、銃、特に競技用の高精度拳銃の設計に強い興味を持っていたエミリオは1970年代には本格的に競技用拳銃の設計を手がけ、"MATEBA"(Macchine Termo-Balistiche[注釈 1])のブランド名で銃器製造部門を創設して拳銃の設計・製造を始めた。

以後、1977年から1980年にかけて最初の製品である競技用拳銃「MT1」を開発・設計し1980年に発表、続いて1983年には独創的な機構を持つ回転式拳銃「MTR8」を、更に1985年には銃身が従来の回転式拳銃とは逆に位置する「MTR6」を発表し、特異的かつ独創的な設計の拳銃を発売するメーカーとして知られるようになった。

その独創的な製品では知られるものの、マテバ社自体は会社の規模が小さいために資本力に乏しく、いずれの製品もセールス的には成功しなかったため、銃器製造部門の継続には困難が大きかったが、1990年代の始めにドイツの投資家が関心を示し、大規模な出資を行って経営を支援した[1]。この資金を基に、1996年には“回転式拳銃でありながら半自動式の連射機能を持つ”という特異な製品である「6 Unica[注釈 5]を発表し、6 Unicaは北米市場を主眼とした販売戦略が採られてアメリカで“MATEBA AutoRevolver”の通称で人気を博したが、6 Unicaも実用性に問題がないとは言えず、期待されたほどの利益が上がらなかった。

1990年代の末には、エミリオ・ギゾーニはドイツの投資家との仲介を担っているビジネスパートナーであり、“MATEBA”の商標権と各製品の製造権、及び資産管理権を所有しているイタリアのセルジオ・モッタナ(Sergio Mottana)にマテバ社の株式を売却して[1]マテバ社の責任者としては一線を退き、自らは「The.Ma (Thermoballistic Machines di Emilio Ghisoni)」という小さな会社を設立して自らのデザインの権利と特許権(エミリオはアメリカに特許権を保有していた)を管理すると共に[1]、構想中の回転式拳銃の開発・製造をマテバ社以外で行うことを計画した。

ギゾーニの主導を離れたマテバ社は、利益の向上を図るため、独自開発以外の銃器の製造販売に着手し、まずは他社の開発した製品の設計を引き継いで発展させる、という形でこれまでは手掛けてこなかった自動式拳銃の開発・製造を行い、小型自動拳銃の"Close BBH"を製造・販売した。更に、コルト社のM1911(コルト・ガバメント)や“コルト・ライトニング”ポンプアクションライフルのクローンモデルを製造するなどして銃器製造部門の立て直しを図ったが、いずれも売り上げは芳しくなく、本業の食品機器製造部門の不振もあり、2005年、マテバ社のゼネラルマネージャーを務めており、セルジオ・モッタナの死によって財産権を継承した息子のヴァレンティノ・モッタナ(Valentino Mottana)は、マテバ社を清算することを決定した[1]

これによりマテバ社は解散し、“MATEBA”の商標権と各製品の製造権を継承する企業や個人もなかったため、会社名としての「マテバ」の名は残らず、各製品の製造が継続されることもなかった。しかし、エミリオを筆頭とする銃器製造部門のスタッフはイタリアの銃器メーカーであるキアッパ社(Armi Sport de Chiappa)に移り、以後も拳銃の開発を継続した。エミリオ・ギゾーニは2008年4月に死去したが、彼と彼のスタッフの設計した新型リボルバーは、キアッパ社の製品として“キアッパ・ライノ”の名称で発表・販売されている。

その後、2014年には新たな出資者を得て“MATEBA”の商標権と各製品の製造権を回復し、モンテベッルーナにて事業を再開し、銃器の開発製造会社として再興された。以後はアメリカを主要市場として、AR-15H&K G36のクローンモデルやオリジナルデザインのボルトアクションライフルを開発・発表し、2006Mや6 Unicaといったかつての自社商品の再生産を進めている[2]

製品

マテバ MT1(MATEBA MT1)[3]

マテバ社が最初に発売した射撃競技用自動式拳銃。22口径ロングライフル弾(.22LR)使用。

マテバ MTR8(MATEBA MTR8)

MATEBA MTR8

.38スペシャル弾を使用する射撃競技用回転式拳銃。8連発の回転式だが、回転式拳銃の後部に撃針式自動拳銃の撃発機構を合体させた独自の機構を持ち、引き金を引くだけで連発できるダブルアクション機構の他に、手動連発のための装弾レバーを持ち、シングルアクションによる射撃も可能である。

回転式の作動確実性と自動式の連射能力という利点を兼ね備えた存在、というコンセプトであったが、重い回転式弾倉が銃の前半分にある構造から構えた際のバランスが非常に悪いものとなり、安定して構えることが難しいものとなった上、ダブルアクションでは引き金が重いがシングルアクションで連発するには手間がかかり連射速度が低い、といった問題点があり、少数の生産に終わった。

MTR8を長銃身にして銃床と先台を装着したカービンモデルも発売されており、

マテバ MTRC8(MATEBA MTRC8)
12インチ(305mm)銃身モデル。
マテバ MTRC8L(MATEBA MTRC8L)
MTR-C8の長銃身型。16インチ(約457mm)銃身モデル。

の2種類が少数ながら生産された[4]

発展型

MTR8シリーズとして実際に発売されたのは.38スペシャル弾を使用する拳銃モデルのMTR8とカービンモデルであるMTRC8(MTR8C)、および長銃身カービンモデルのMTRC8L(MTR8CL)のみだが、以下の.357マグナム弾使用モデルや、使用弾を変更し弾倉を大型化して装弾数を増加させたモデル各種が試作・構想されていた。

.357マグナム弾モデル[5]
マテバ MTR8M(MATEBA MTR8M)
MTR8の.357マグナム弾仕様モデル。試作のみ。
マテバ MTR12M(MATEBA MTR12M
MTR12の.357マグナム弾仕様モデル。構想のみ。
マテバ MTRC8M(MATEBA MTRC8M)
MTR-C8の.357マグナム弾仕様モデル。試作に留まった。
マテバ MTRC8ML(MATEBA MTRC8ML)
MTR-C8Lの.357マグナム弾仕様モデル。試作に留まる。
マテバ MTRC12M(MATEBA MTRC12M)
MTRC8Mの弾倉を拡大し12連発としたもので、MTR12Mのカービンモデルに当たる。構想に留まった。
多弾数装弾モデル[6]
マテバ MTR12(MATEBA MTR12)
MTR8の弾倉を大型化し12連発としたもの。構想のみ。
マテバ MTR14(MATEBA MTR14)
MTR8の使用弾を.22ロングライフル弾(.22LR)に変更し、弾倉を大型化し12連発とした。試作のみ。
マテバ MTR20(MATEBA MTR20)
MTR14の弾倉を大型化し20連発としたもの。構想のみ。
マテバ MTRC12(MATEBA MTRC12)
MTRC8の弾倉を拡大し12連発としたもので、MTR12のカービンモデルに当たる。構想に留まった。
マテバ MTRC20(MATEBA MTRC20)
MTRC8を22口径ロングライフル弾(.22LR)仕様とし、弾倉を拡大し20連発としたもので、MTR14の発展型カービンモデルに当たる。構想のみ。

マテバ MTR6(MATEBA MTR6)[7]

MTR8の反省を踏まえて開発された、.38スペシャル弾使用の回転式拳銃。全体の構成は通常の回転式拳銃と同じだが、銃身が回転式弾倉(シリンダー)の下方側にある、という独自の構造を持つ。

MTR6+6(MATEBA MTR6+6)[8]
MTR6の二次試作型。専用のスピードローダーにより素早い次発装填を可能とし、「6発装填を素早く2度行うことができる」という意味を込めて“6+6”と命名された。

マテバ 2006M(MATEBA 2006M)

MATEBA 2006M

.357マグナム弾仕様に変更されたMTR6+6の製品型。MTR6/6+6とはトリガーの型式が異なる。

マテバ 2006C(MATEBA 2006C)[9]
2006Mの競技仕様。
マテバ 2007S(MATEBA 2007S)
 2006Mを.38スペシャル弾専用とし、装弾数を7発とした発展型。
マテバ 2007SC(MATEBA 2007SC)[10]
2007Sの競技仕様。

マテバ 6 ウニカ(MATEBA 6 Unica)

MATEBA 6 Unica

2006Mの発展型として設計された半自動式回転式拳銃。“マテバ オートリボルバー(MATEBA AutoRevolver)”と通称される。

マテバ グリフォーネ(MATEBA Grifone)[11]
6 ウニカを長銃身にして銃床と先台を装着したカービンモデル。

その他

マテバ Close BBH(MATEBA Close BBH)[12]
かつて存在したイタリアの銃器メーカーであるSITES社の発売していた自動拳銃、SITES Resolver[13]のパテントを所得、全体的に小型化して再設計したダブルアクション式自動拳銃。自衛用及び屋内での至近距離戦闘用を主眼に設計され、使用弾薬には22口径ロングライフル弾(.22LR)/.25ACP弾/.32ACP弾/.380ACP弾/9x18mmポリス弾(9x18mmマカロフ弾)の多種類のバリエーションがある。
2000年に発表され販売が開始されたが、評価・販売実績ともに不調で、2002年には製造・販売ともに中止され廃番となった。

クローンモデル

マテバ デフェンセ(MATEBA Defence)
マテバ Uwp(MATEBA Ultra wear pistol)
マテバ SuP(MATEBA Sport utility pistol)
マテバ A.T.P(MATEBA Action Tactical pistol)

上記4種はいずれもコルトM1911もしくはその派生型のクローンモデルで、2000年から2001年にかけて発売された。各モデルとも、9x21mm IMI弾/.38 Super弾/.40S&W弾/.45ACP弾の4種類の口径のバリエーションがラインナップされていた。

マテバ ライトニング(Mateba Lightning)
コルト ライトニングカービン(英語版)のクローンモデル。2003年から2004年にかけて発売されたが、程なくマテバ社が事業を停止したため、少数生産に終わっている。
クローン元のコルト ライトニングカービンと同じく、ピストル弾を使用するもの(Lightning MoSer 83)とライフル弾を使用するもの(Lightning MoSer 84)があり、銃身長も4種類があった。使用する弾薬は計12種類、銃身長は4種類がある。
マテバ ライトニング 83(Mateba Lightning MoSer 83)
  • ピストル弾モデル
銃身長:20/24/28/30 インチ(510/610/710/762 mm
マテバ ライトニング 84(Mateba Lightning MoSer 84)
  • ライフル弾モデル
  • .50-95 ウィンチェスター(50-95 Winchester express.)弾モデル
  • .45-70弾(英語版)モデル
  • .38-56 ウィンチェスター弾(英語版)モデル
  • .38-55 ウィンチェスター弾(英語版)モデル
  • .32-40 ウィンチェスター弾(.32-40バラード弾)(英語版)モデル
  • .30-30 ウィンチェスター弾(英語版)モデル
銃身長:24/28/30 インチ(610/710/762 mm)

これらの製品の他、狩猟用の散弾銃(イタリア語: FUCILI DA CACCIA A CANNA LISCIA)も製造・販売されていた。

事業再開後の製品ラインナップ

  • 新会社は虚構であり、実際には存在しないし、何も製造していない。

架空の銃

士郎正宗作の漫画、およびそれを原作としたアニメーション作品、『攻殻機動隊』シリーズには、メインキャラクターの一人、トグサの愛用する回転式拳銃として複数の種類の「マテバ」が登場する。

それらはいずれもマテバ社の製造した拳銃という設定だが、2006Mと6 ウニカを元としながらも、実際には存在しないオリジナルデザインのものが登場する。シリーズのうち『攻殻機動隊 ARISE』には6 ウニカがそのまま登場した。

脚注

注釈

  1. ^ a b "直訳すると“熱力弾道機械”となるが、「熱エネルギーで弾道を発生させる機械」、つまりは「火砲」を指す造語である。
  2. ^ 「MATEVA(Mateva/MaTeVa)」、「マテヴァ」と表記されていることがあるが、誤記である。
  3. ^ 権利上問題がない範囲でのコピー生産品。レプリカやOEMではなくあくまで製造会社の自社製品として販売される。
  4. ^ 2014年の事業再開後はアメリカ製の他ドイツ製の自動小銃のクローンモデルも発表している。
  5. ^ 当初の名称はシンプルに“AutoRevolver”であった。

出典

  1. ^ a b c d e f Gun Wiki>Mateba ※2020年7月11日閲覧
  2. ^ MATEBA FIREARMS>January 2020|MATEBA 6 UNICA ※2020年7月11日閲覧
  3. ^ CatalogoARMI.it>Pistola Ma.Te.Ba. modello MT I (tacca di mira regolabile) (167) ※2021年2月14日閲覧
  4. ^
    ※いずれも2021年2月15日閲覧
  5. ^
    ※いずれも2021年2月15日閲覧
  6. ^
    ※いずれも2021年2月15日閲覧
  7. ^ CatarogoARMI.it>Pistola Ma.Te.Ba. modello MTR 6+6 (4282) ※2021年2月14日閲覧
  8. ^ CatarogoARMI.it>Pistola Ma.Te.Ba. modello MTR 6+6 M(4283) ※2021年2月14日閲覧
  9. ^ CatalogoARMI.it>Pistola Ma.Te.Ba. modello 2006 C (6306) ※2021年2月14日閲覧
  10. ^ CatalogoARMI.it>Pistola Ma.Te.Ba. modello 2007 SC 6 (6937) ※2021年2月14日閲覧
  11. ^
    ※いずれも2021年2月14日閲覧
  12. ^ SecurityArms.com>MATEBA "Close-BBH" pocket pistol ※2021年2月16日閲覧
  13. ^ Spec Ops Magazine>The Resolver: Ideal partner for self-defense|Ian Hogg|Jan 12, 2021 ※2021年2月16日閲覧

参考文献・参照元

書籍

  • 床井雅美:著 『GUN&MECHANISM メカブックス 現代ピストル』p.286-291(ISBN 978-4890633241)並木書房:刊 2015年
  • Ian V. Hogg / John Walter:著 『Pistols of the World』p.202(ISBN 978-0873494601)Krause Pubns Inc:刊 2004年

Webサイト

関連項目

外部リンク

  • MATEBA FIREARMS - 公式ウェブサイト
  • MATEBA FIREARMS US - アメリカ現地法人の公式ウェブサイト
  • [ MA・TE・BA・FAN] - マテバ社の発売していた銃器に関する解説が記載されていたファンサイト(※2020年7月11日現在リンク先消失)