民族叙事詩

伝統的なフィンランドの民族を朗読するカレリアを歌うPoavilaとTriihvo Jamanen兄弟ロシア1894年

民族叙事詩(みんぞくじょじし、または国民叙事詩英語: National epic)とは、特定の民族の本質・精神を表現することを目指した、あるいは表現したと信じられている叙事詩、あるいはそれに類似した作品のこと。民族叙事詩は民族(国民)の起源を、その歴史の一部として、あるいは他のナショナル・シンボルなどのような民族(国民)的アイデンティティの発展の中での出来事として物語ることが多い。広義では、民族叙事詩は単純にその民族(国民)の人物・政府が特に誇りに思う国語で書かれた叙事詩を指す。

歴史

トロイアの滅亡に始まり、ローマ国家の誕生までを描いたウェルギリウス作『アエネイス』はホメーロス作『イーリアス』のローマ版と見なされている。一般の歴史概念によると、帝国は過去と現在の間に存在する有機的な連続と対応の中で生まれ死ぬ。王がアレクサンドロス3世(アレクサンダー大王)やガイウス・ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)といった過去の偉大な指導者と肩を並べたいと望む時、詩人たちは新しいホメーロス、ウェルギリウスになりたいと望む。16世紀ポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイスが『ウズ・ルジアダス』の中で自国の海軍力を賛美すれば、フランスの詩人ピエール・ド・ロンサールは自国民の祖をトロイアの王子たちまで遡る、『アエネイス』のゴール人版『フランシアード』の執筆に取りかかった[1]

しかし、民族(国民)的なエートスの出現は、ナショナル・ロマンティシズムから生まれたとおぼしき「民族叙事詩」という語の誕生に先行する。明らかな民族叙事詩がまだ現れていない時、ロマン主義精神はそれを作らねばという意欲を起こさせる。民族(国民)的神話の中の溝を埋めることを創案した初期の詩には、ジェイムズ・マクファーソンの叙事詩サイクルオシアン詩集がある。オシアンはこの詩の語り手であり想像上の作家で、マクファーソンはこの詩をスコットランド・ゲール語の古文書から翻訳したと主張した。もっとも、マクファーソンのオシアンを含む多くの民族叙事詩は19世紀ロマン主義に先立つものである。

20世紀初頭、「民族叙事詩」という語はもはや必ずしも叙事詩に対して使われるものではなくなった。民族(国民)の歴史的背景のディテールを必ずしも持たなくとも、読者ならびに批評家が民族(国民)文学の象徴であると認める文学作品を表すものとなった。その文脈において、民族叙事詩という語は疑いもなく建設的な含意を持つ。たとえば、ジェームズ・ジョイスは『ユリシーズ』の中で、『ドン・キホーテ』はスペインの民族叙事詩だが、アイルランドではまだ民族叙事詩は書かれていないということをほのめかした。

民族叙事詩の例

アフリカ

アメリカ

アジア

日本竹取物語は『かぐや姫』としても知られる。

ヨーロッパ

散文叙事詩

日本源氏物語

厳密には叙事詩ではないが、散文作品の中にも、民族(国民)意識のうえで重要な位置を占める作品がある。

脚注

  1. ^ Epic Liliane Kesteloot, University of Dakar
  2. ^ The Lusiads”. World Digital Library (1800-1882). 2013年8月30日閲覧。

関連項目

外部リンク