濁上変去

濁上変去 / 濁上帰去
各種表記
繁体字 濁上變去 / 濁上歸去
簡体字 浊上变去 / 浊上归去
拼音 zhuóshǎng biàn qù / –– guī –
通用拼音 jhuóshǎng biàn cyù / –– guēi –
注音符号 ㄓㄨㄛˇㄕㄤˇ ㄅㄧㄢˋ ㄑㄩˋ / –– ㄍㄨㄟ –
発音: チュォシャン ピエンチュー / –– クイチュー
日本語読み: だくじょうへんきょ / だくじょうききょ
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濁上変去(だくじょうへんきょ、または濁上帰去/だくじょうききょ)[注釈 1]は、音韻学と漢語方言学における術語の一つであり、中古漢語声調の変化の三つの主要現象の一つで、声母全濁である上声字が、去声に読み改められたことを指す(また、次濁上声字の声調が全清上声字と同じになった)。

時期

濁上変去の開始時期は、早くもの時期にその痕跡を探し当てうる[1]晩唐の李涪『切韻刊誤[2]』は、「呉音(ここでは『切韻』を指す[注釈 2])の間違いはまたひどいものではないか!上声を去声とし、去声を上声とするなどとは[注釈 3]。」と言い、「辯・舅・皓」などの字を示し、『切韻』が上声に帰するのを不適切だとしている。李涪が『切韻』を“呉音”とするのはもとより誤謬であるが、『切韻』の全濁声母上声字が、李涪の方言では既に去声に変じていたことを垣間見せてくれる[3]。全濁上声字とそれに対応する去声字とを明確に同音字であると看做して一所に配列したのは、元代の周徳清の『中原音韻』である[4]

範囲

濁上変去現象は、官話贛語・大部分の湘語において総じて規則的である。また呉語閩語客家語粤語においては多くが陽上の調類に留まったか、あるいは古い全濁上字と次濁上字の白読音には共通した発展変化の動きがあるが、ともに皆、単独で調類を成すには至らなかった。例えば客家語では、古い濁上字の白読音は多くがまとめて陰平に入り、北部呉語では、古い濁上字の白読音は多く陽去に帰す。建陽では陽上は陰去に帰し、閩南では陽上は陽去に帰し、沙渓では陽上は陽入に帰し、閩北では大部分の陽上が声母の類型により陰去・陽去・陽入、ひいては陰平にさえ割り振られる。学者らは濁上変去現象の等語線を漢語七大方言の区分の根拠の一つとする[5]

例えば以下のようである[6]

漢字 中古音 漢語拼音 官話
北京話
官話
揚州話
湘語
長沙話
贛語
南昌話
湘語
東安話
呉語
蘇州話
呉語
温州話
閩語
潮州話
客家話
梅県話
粤語
広州話
清上 dǎo tau[補足 1] tau tau təu tau tou
全濁上 dào tau tau(白読) tʰau/tau dəu(白読) tau tʰau/tau tou
次濁上 lǎo lau lau lau[補足 2] lei lau(白読) lau[補足 3] lou
全濁上声“道”は、今は去声あるいは陽去に読み、次濁上声“老”は全清上声に入った。 全濁上声“道”は、依然として陽上に読む場合もあれば、去声あるいは陽去に読む場合もあるが、次濁上声“老”の声調と並行した変化をなす。

例字

以下は、古代に全濁声母上声に属し(沢存堂本『広韻』による)、現代漢語の普通話で去声に読む字のいくつかの例である。

並母:並、部、倍、抱、被。

奉母:奉、婦、父、犯、范。

定母:杜、稲、動、蕩、弟。

澄母:重、趙、杖、丈、兆。

従母:在、坐、静、造、聚。

邪母:象、像、祀、序、似。

崇母:士、仕、柿、撰、饌。

船母:葚[補足 4]

禅母:上、受、是、善、甚。

群母:巨、件、近、技、拒。

匣母:下、后[補足 5]、戸、旱、幸。

この規則には少数の例外も存在する。例えば、“緩”は元より匣母上声で、現代漢語の普通話でも上声に読むが、“揆”は元々、群母上声だったものが、現代漢語の普通話では陽平に読む。

脚注

出典

  1. ^ 羅邦柱 主編 (1988). 古汉语知识辞典. 武漢: 武漢大学出版社. pp. 93. ISBN 7307003481 
  2. ^ ウィキソース出典  (中国語) 切韻刊誤, ウィキソースより閲覧。 
  3. ^ 馬文熙 等 編 (2004). 古汉语知识辞典. 北京: 中華書局. pp. 275. ISBN 9787101041132 
  4. ^ 唐作藩 (2002). 音韵学教程(第三版). 北京: 北京大学出版社. p. 174. ISBN 9787301016985 
  5. ^ 李小凡・項梦冰編著 (2009). 汉语方言学基础教程. 北京: 北京大学出版社. pp. 134、135. ISBN 9787301158517 
  6. ^ 北京大学中国語言文学系語言学教研室編 (2003). 汉语方音字汇(第二版重排本). 北京: 北京大学出版社. pp. 360、363. ISBN 7801840348 

補足

  1. ^ 漢語方言記録用の「□」「□」「□」「□」「□」「□」「□」「□」は、それぞれ「陰平」「陽平」「陰上」「陽上」「陰去」「陽去」「陰入」「陽入」の声調を表示する。
  2. ^ 別読 /lau/
  3. ^ 別読 /lau/
  4. ^ 船母は平声が主で、かつ上声は常に去に変わる、普段見かけるような字は多くない。
  5. ^ “後”も包括。

注釈

  1. ^ 訓読すれば「濁上 去ニ変ズ」「濁上 去ニ帰ス」。「全濁上声の去声への流入」、「全濁上声の去声化」などともいう。
  2. ^ 李涪は『切韻』が中原の“正統的”漢字音ではなく、華南方言における漢字音(呉音)に基づいていると非難してこのように呼んでいる。日本漢字音における“呉音”も、華南地方の漢字音が元になったものとしてこのように呼ばれる。呉は元来、揚子江下流域を指す。
  3. ^ 原文:
    呉音乖舛、不亦甚乎!上聲爲去、去聲爲上。
    (呉音の乖舛かいせん、亦た甚だしからざらんか!上声を去と為し、去声を上と為す。)

参考書籍

  • 唐作藩 (2002). 音韵学教程(第三版). 北京: 北京大学出版社. ISBN 9787301016985 
  • 王寧 主編 (2002). 古代汉语. 北京: 北京出版社. ISBN 7200045918 
  • 王力 (2008). 汉语语音史. 北京: 商务印书馆. ISBN 9787100053907 
  • 李小凡・項梦冰編著 (2009). 汉语方言学基础教程. 北京: 北京大学出版社. ISBN 9787301158517