オナガザル科

オナガザル科
生息年代: 漸新世 - 現世, 30 - 0 Ma[1]
ハヌマンラングール
ハヌマンラングール Semnopithecus entellus
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 霊長目 Primates
亜目 : 直鼻亜目 Haplorrhini
下目 : 真猿型下目 Simiiformes
小目 : 狭鼻小目 Catarrhini
上科 : オナガザル上科
Cercopithecoidea Gray, 1821
: オナガザル科 Cercopithecidae
学名
Cercopithecidae
Gray, 1821[2]
和名
オナガザル科[3][4][5]
英名
Old World monkey[6]
分布図。色が濃い場所は種多様性が高い

オナガザル科(オナガザルか、Cercopithecidae)は、霊長目に分類される。別名旧世界ザル狭鼻猿[4][7]。24属138種が分類されており、霊長類の中では最大の科である。ヒヒやコロブス、マカク、グエノン、ラングールなどが知られる。

系統学的には新世界ザルよりも類人猿に近い。類人猿とは2500万年から3000万年前に共通祖先から分岐した[8]。本科と類人猿を含む系統群は、約4500万年から5500万年前に新世界ザルとの共通祖先から分岐した[9]。本科の種同士の距離は、類人猿など他の分類群と比べて近縁である[10]

小型のタラポアン属英語版は頭胴長34-37cm、体重0.7-1.3kgである。最大の種はマンドリルで、雄では体長約70cm、最大体重50kgに達する[11]。顔の特徴は多様で、鼻口部のある種や鼻の短い種、鮮やかな顔を持つ種もいる。ほとんどの種は尾をもつが、物をつかむことはできない。

現在は主にアフリカアジアに分布しており、熱帯雨林サバンナなど、さまざまな環境に生息する。かつてはヨーロッパの多くの地域に分布していたが、現在ヨーロッパで生き残っているのはジブラルタルバーバリーマカクのみである。元々分布していたのか、人間によって持ち込まれたのかは不明である。

コロブスのように樹上棲の種や、ヒヒのように地上棲の種もいる。ほとんどの種は雑食性だが、基本的に植物を好み、食事の大部分を占めている。主に果実を食べるが、球根根茎昆虫カタツムリ、小型の哺乳類[11]、ゴミ、人間が与えた食べ物など、入手可能な食物を日和見的に消費する。

分類と系統

以下の現生種の分類・和名・英名は日本モンキーセンター霊長類和名編纂ワーキンググループ(2024)に従う[5]

ヒト上科とは3600 - 2700万年前または3800 - 2500万年前に分岐したと推定されている[12]。オナガザル亜科とコロブス亜科の分岐年代は、1620 - 1450万年前や1800 - 1100万年前などの説がある[12]。類人猿とサルの区別は曖昧な点が多い。類人猿は本科の姉妹群として出現し、この系統は新世界ザルの姉妹群である。したがって類人猿も分岐学的にはサルに含まれる[13]

「旧世界ザル」は狭鼻猿のみならず、類人猿や近縁の絶滅種を含むものと解釈することもできる[14]。その場合、類人猿、オナガザル上科、エジプトピテクス、さらに拡大した定義では広鼻猿[15]、旧世界ザルの中から出現したことになる。歴史的にはアフリカ・アラビアの猿が、約4000万年前に新世界に漂着し、新世界ザルが生まれた。類人猿は後にアフリカ・アラビアのグループ内から出現することになる。

形態

中型から大型であり、コロブスのような樹上棲の種から、ヒヒのような完全に地上棲の種まで様々である。最も小さいものはタラポアン属で、頭胴長は34-37cm、体重は0.7-1.3kgである。最も大きいものはマンドリルで、雄の体長は約70cm、体重は最大50kgである[11]

尾のない類人猿とは異なり、オナガザル科のほとんどには尾がある。広鼻猿 の尾とは異なり、物をつかむのには適していない。

狭鼻類と広鼻類の区別は鼻腔の構造によって決まり、オナガザル科と類人猿の区別は歯によって決まる。歯の数は両者とも同じだが、形が異なる。広鼻類では鼻孔が横を向いているが、狭鼻類では下を向いている。その他の区別としては、鼓室が管状であることなどがある。歯列は門歯が上下4本、犬歯が上下2本、小臼歯が上下4本、大臼歯が上下6本の計32本[4]。大臼歯には咬頭が4つあり、前方の咬頭と後方の咬頭が側面で繋がり稜歯となる[4]。臀部に角質部(尻だこ)がある[3][4]

解剖学上の奇妙な特徴を持つ種もある。例えば、コロブスは樹上での移動を助けるために、親指が短くなっている。テングザルは鼻が著しく長く、シシバナザル属の鼻は平たい。マンドリルの雄のペニスは深紅色、陰嚢は薄紫色で、顔も鮮やかな色をしている。優位な雄ではこの色がより鮮やかである[16]

分布と生息地

現在はアフリカとアジアに分布しており、熱帯雨林サバンナ、低木地、山岳地帯など、さまざまな環境に生息する。新第三紀にはヨーロッパの多くの地域に分布していたが[17]、現在ヨーロッパで生き残っているのはジブラルタルのバーバリーマカクのみである。

生態と行動

食性

ほとんどの種は雑食性だが、いずれも植物を好み、食事の大半を占めている。リーフモンキーは最も草食傾向が強く、主にを食べており、昆虫はごくわずかしか食べない。他の種は非常に日和見的で、主に果実を食べるが、、葉、球根根茎、昆虫、カタツムリ、小型の脊椎動物など、入手可能なほぼすべての食物を食べる[11]。バーバリーマカクの食事は主に葉と根だが、昆虫も食べ、シダーの木を水源として利用する[18]

繫殖と成長

妊娠期間は5-7ヶ月で、産子数は通常一匹だが、人間と同様に双子が生まれることもある。子は比較的よく成長した状態で生まれ、生まれたときから手で母親の毛皮にしがみつくことができる。他のほとんどの哺乳類と比べると、性成熟には4-6年と長い時間がかかる。

社会

ほとんどの種では、娘は生涯母親と一緒にいるため、基本的な社会集団は母系制である。雄は思春期に達すると集団を離れ、新しい集団に加わる。多くの種では、1つの集団の雄成獣は一頭で、ライバルを追い払うが、より寛容な種もおり、優位な雄と従属的な雄という階層関係を築いている。集団の規模は、食物やその他の資源の入手可能性に応じて、種内であっても大きく異なる[11]

出典

  1. ^ Rasmussen, D. Tab; Friscia, Anthony R.; Gutierrez, Mercedes; Kappelman, John; Miller, Ellen R.; Muteti, Samuel; Reynoso, Dawn; Rossie, James B. et al. (2019-03-26). “Primitive Old World monkey from the earliest Miocene of Kenya and the evolution of cercopithecoid bilophodonty”. Proceedings of the National Academy of Sciences 116 (13): 6051–6056. doi:10.1073/pnas.1815423116. ISSN 0027-8424. PMC PMC6442627. PMID 30858323. https://pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.1815423116. 
  2. ^ Gray, J.E. (1821). “On the natural arrangement of vertebrose animals”. London Medical Repository 15 (1): 296–310. https://archive.org/stream/londonmedicalre08unkngoog#page/n309/mode/2up. 
  3. ^ a b 岩本光雄「サルの分類名(その2:オナガザル,マンガベイ,ヒヒ)」『霊長類研究』第2巻 1号、日本霊長類学会、1986年、76 - 88頁。
  4. ^ a b c d e 河合雅雄 「森林で適応拡散したサル類のなかで、オナガザル類は熱帯雨林からサバナまで生活の場を広げた。」『動物たちの地球 哺乳類I 7 ニホンザル・ゲラダヒヒほか』第8巻 43号、朝日新聞社、1992年、202 - 204頁。
  5. ^ a b 日本モンキーセンター霊長類和名編纂ワーキンググループ 「日本モンキーセンター 霊長類和名リスト 2024年7月版」(公開日2024年8月15日・2025年2月13日閲覧)
  6. ^ Groves, C. P. (2005). Wilson, D. E.; Reeder, D. M. eds. Mammal Species of the World (3rd ed.). Baltimore: Johns Hopkins University Press. pp. 152–178. ISBN 0-801-88221-4. OCLC 62265494. http://www.departments.bucknell.edu/biology/resources/msw3/ 
  7. ^ 岩本光雄「サルの分類名(その1:マカク)」『霊長類研究』第1巻 1号、日本霊長類学会、1985年、45 - 54頁。
  8. ^ Fossils Indicate Common Ancestor for Old World Monkeys and Apes”. Scientific American. 2025年2月13日閲覧。
  9. ^ Perez, S.I.; Tejedor, M.F. (June 2013). “Divergence times and the evolutionary radiation of New World monkeys (Platyrrhini, Primates): an analysis of fossil and molecular data”. PLOS ONE 8 (6): e68029. Bibcode2013PLoSO...868029P. doi:10.1371/journal.pone.0068029. PMC 3694915. PMID 23826358. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3694915/. 
  10. ^ Dawkins, Richard (2004). The Ancestor's Tale: A Pilgrimage to the Dawn of Evolution. Houghton Mifflin Harcourt. p. 138. ISBN 9780618619160. https://books.google.com/books?id=rR9XPnaqvCMC&pg=PA138 
  11. ^ a b c d e Brandon-Jones, Douglas & Rowell, Thelma E. (1984). Macdonald, D.. ed. The Encyclopedia of Mammals. New York: Facts on File. pp. 370–405. ISBN 0-87196-871-1. https://archive.org/details/encyclopediaofma00mals_0/page/370 
  12. ^ a b 中務真人・國松豊 「アフリカの中新世旧世界ザルの進化:現生ヒト上科進化への影響」『Anthropological Science (Japanese Series)』第120巻 2号、日本人類学会、2012年、99 - 119頁。
  13. ^ GEOL 204 The Fossil Record: The Scatterlings of Africa: The Origins of Humanity”. www.geol.umd.edu. 2019年2月7日時点のオリジナルよりアーカイブ2022年1月2日閲覧。
  14. ^ AronRa (2010-01-16), Turns out we DID come from monkeys!, オリジナルの2021-12-21時点におけるアーカイブ。, https://ghostarchive.org/varchive/youtube/20211221/4A-dMqEbSk8 2018年11月12日閲覧。 
  15. ^ Early Primate Evolution: The First Primates”. anthro.palomar.edu. 2018年1月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年8月12日閲覧。
  16. ^ Setchell, Joanna M.; Dixson, Alan F. (2002). “Developmental variables and dominance rank in adolescent male mandrills (Mandrillus sphinx)”. American Journal of Primatology 56 (1): 9–25. doi:10.1002/ajp.1060. PMID 11793410. 
  17. ^ Agustí, Jordi; Antón, Mauricio (2002). Mammoths, Sabretooths, and Hominids: 65 Million Years of Evolution in Europe. New York: Columbia University Press. pp. 216–218. ISBN 0-231-11640-3 
  18. ^ Ciani, Andrea Camperio; Martinoli, Loredana; Capiluppi, Claudio; Arahou, Mohamed; Mouna, Mohamed (2001). “Effects of Water Availability and Habitat Quality on Bark-Stripping Behavior in Barbary Macaques”. Conservation Biology 15 (1): 259–265. Bibcode2001ConBi..15..259C. doi:10.1111/j.1523-1739.2001.99019.x. 

関連項目

  • Girneys英語版 ‐出産シーズン前後の雌が他の血縁関係のないメスと子供にかける交流を持ちかける鳴き声。