重力インスタントン(じゅうりょく - )とは、以下の3つの性質を持つ4次元リーマン多様体のことである。
- リッチ平坦
- 自己双対(self-dual)なリーマン曲率テンソルをもつ
- 無限遠で局所的に平坦(asymptotically locally flat)である
(しかし実は、2. ならば 1. が言える。)
あるいは、もっと広い意味で、3. を満たしリッチ曲率が計量に比例している(いわゆる宇宙定数がある)ものを言う。
ヤン・ミルズ理論のインスタントンとの類似から、そう呼ばれる。ALE(Asymptotically Locally Euclidean)空間とも呼ばれる。
性質
(4次元)重力インスタントンは次の3つの言い方ができる。
- リーマンの曲率テンソルが自己双対
- リッチ平坦かつケーラー多様体(= カラビ・ヤウ多様体)
- 超ケーラー多様体
高次元にいくと、これら3つはすべて異なる条件になる。
例
重力インスタントンは3次元球面の左不変な1-形式をσi (i = 1, 2, 3) を用いて書くのが便利であり、それらはオイラー角を用いて、
のように表される。
ユークリッド化されたターブ・ナット(Euclidean Taub-NUT)計量
ユークリッド化されたターブ・ナット計量(英語版)は
によって与えられる。
江口・ハンソン(Eguchi-Hanson)計量
江口・ハンソン計量(英語版)は
のように表現される。ここで、座標の範囲は r ≥ a1/4 である。
この計量がいたるところ滑らか、つまりregularな計量であるためには、r → a1/4, θ= 0, π のところで錐特異点(conical singularity)がないことである。この条件はパラメーター a がゼロかそうでないかで場合分けされ、
- a = 0 のとき座標 ψ の周期が 4π
- a ≠ 0 のときは座標 ψ の周期が 2π
とならなければならない。
別の座標系を用いて、
と表現されることもある。ここで、
である。
ギボンズ・ホーキング(Gibbons-Hawking)計量
ギボンズ・ホーキング計量(英語版)[1]は
と定義され、ここに、
である。 は、多重ターブ・ナッツ計量に対応し、 で では平坦空間であり、 で では、(異なる座標で)江口・ハンソン解である。
出典
- ^ Gibbons, G. W.; Hawking, S. W., Gravitational Multi-instantons. Phys. Lett. B 78 (1978), no. 4, 430–432; see also Classification of gravitational instanton symmetries. Comm. Math. Phys. 66 (1979), no. 3, 291–310.
参考文献
- Eguchi, Tohru; Hanson, Andrew J., Asymptotically flat selfdual solutions to Euclidean gravity. Phys. Lett. B 74 (1978), no. 3, 249–251; see also Self-dual solutions to Euclidean Gravity. Ann. Physics 120 (1979), no. 1, 82–106 and Gravitational instantons. Gen. Relativity Gravitation 11 (1979), no. 5, 315–320.