2022年ドイツクーデター未遂事件
2022年ドイツクーデター未遂事件 | |||
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ライヒスビュルガー運動内で発生 | |||
日時 | 2022年12月7日 | ||
目的 | ドイツ連邦政府の転覆とドイツ帝国をモデルとする君主制国家の樹立 | ||
結果 | 計画は失敗し、ハインリヒ13世、ビルギット・マルザック=ヴィンケマンら首謀者は逮捕。 | ||
参加集団 | |||
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人数 | |||
死傷者数 | |||
逮捕者 | 25人 |
2022年ドイツクーデター未遂事件(2022ねんドイツクーデターみすいじけん)は、2022年12月7日[3]にドイツで極右グループメンバー25人[4]がドイツの国家転覆を計画した容疑で逮捕された事件[5][6]。 逮捕者が所属する組織は、「愛国者連合(ドイツ語: Patriotische Union)」または「評議会(ドイツ語: Der Rat)」などと呼ばれる、ドイツの極右過激派集団「ライヒスビュルガー(ライヒ市民)運動」(英語版) の一派とされるグループで、かつてのドイツ帝国を模した君主制国家を樹立することを目的とし、ドイツ国内を混沌に陥れて内戦状態を引き起こし政権奪取を企てたとされている[7]。
計画を察知したドイツ当局は3000人を超える警察官や特殊治安部隊を動員してドイツ全土130か所を捜査し、旧領邦君主ロイス家の一族にあたるハインリヒ13世・プリンツ・ロイス[注釈 1]や、ドイツのための選択肢(AfD)の元党員で元連邦議会議員のビルギット・マルザック=ヴィンケマンらを逮捕した[8]。またグループには現役の軍人や現職の警察官も含まれていた。現代ドイツ史上最大規模の反過激派作戦であり[1][9]、ペーター・フランク検事総長はグループをテロ組織であると断言した[10]。
メンバー
ドイツ検察によれば、メンバーのうちおよそ50人は「自由で民主的な基本秩序」を否定し暴力と反ユダヤ主義に関連する極右グループ集団ライヒスビュルガー(ライヒ市民)運動のメンバーでもある[2][11]。またQアノンの信奉者や新型コロナ否定論者もいると報道されており[12]、グループ内には、それぞれ担当部署があったという。検察は容疑者52人のうち25人を逮捕した[2]。
ドイツ軍の特殊部隊KSKの元隊員も複数おり、このうちの一人リュディガー・フォン・ペスカトーレ(Rüdiger von Pescatore)はドイツ連邦軍空挺師団の元将校で[13]、ドイツ警察の特殊部隊GSG-9はカルフ近郊のグラーフ・ツェッペリン軍事基地(Graf-Zeppelin-Kaserne)を捜索している。ペスカトーレはグループの軍事部門の責任者であったとみられている。連邦検察当局は、このペスカトーレとハインリヒ13世・プリンツ・ロイスを首謀者としており、ペスカトーレは警官や軍人をグループに勧誘しようとしたともいわれている[14][15]。この他のメンバーには、ドイツ軍元大佐(Oberst)のマクシミリアン・エーダー(Maximilian Eder)[16]、ハノーファーの元刑事警察官ミヒャエル・フリッチュ(Michael Fritsch)[17]、バイロイトの元大佐でサバイバルトレーニングのビジネスも行っていたペーター・ヴェルナー(Peter Wörner)[16]などがいる。
ベルリンの弁護士で裁判官でもあるビルギット・マルザック=ヴィンケマンは、クーデター後の国家で法務大臣に指定されていたとも伝えられている[18]。マルザック=ヴィンケマンは2017年から2021年までドイツ連邦議会議員(ドイツのための選択肢 AfD 所属)であったが2022年12月7日に逮捕された[19]。
グループには少なくともあと一人AfD党員、ザクセン州オルバーンハウの元地方議員でAfD所属のクリティアン・ヴェンドラー(Christian Wendler)も所属しているとされる[20][21]。 デア・シュピーゲル紙によれば、この組織には「普通ではない額の資金」があり、武器や衛星電話を購入していた。警察が強制捜査した拠点のひとつ、バート・ローベンシュタインの狩猟ロッジは、首謀者のひとりとされるハインリヒ13世の所有地であるが、同時にロンドンの資産管理会社「Heinrich XIII. Prinz Reuß & Anderson & Peters Ltd.」の関連会社の住所でもあるという[22][23]。
目的と政治思想
グループは、1871年から1918年まで存在したドイツ帝国のような君主制政府を樹立することを目的としていた[6]。2021年11月以降、グループはドイツ連邦議会の襲撃と政治家の公開逮捕、それに続く市民の混乱・暴動を引き起こすことを計画した。そして、計画実行の暁にはドイツ治安当局の一部が彼らの行動に連帯を示すものと見込み、それによって政府を「転覆」して権力を手中に収めることができると考えた[24]。
グループは右派寄りとみなされ、他団体と同様反ユダヤ主義を推し進めていた[12]。連邦議会の議場がおかれている国会議事堂の襲撃がクーデター計画の一部であったが、これは2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件に触発されたものである[25]。
捜査と逮捕
ドイツ警察当局は2022年の春からグループの捜査を開始していた。グループの一部はドイツの急進派団体「Querdenken クヴェアデンケン」のメンバーもいた。 ハインリヒ13世への捜査を起点として作戦は開始され、最終的には連邦刑事庁(BKA)が捜査を行った。さらに複数の州の刑事捜査局や連邦憲法擁護庁の州当局も捜査に加わった。 捜査当局によれば、クーデターは2021年11月から計画されたもので、現政権を暴力・テロ的手法により転覆させるものであったとみられている。ドイツ警察は、2022年4月にドイツ連邦保健相カール・ラウターバッハの誘拐計画容疑でこの「愛国者連合」のメンバーを逮捕した際に初めてこのグループの存在を知った[12]。2022年9月には52人の容疑者の徹底監視が始められた[25]。
ドイツ南部のバイエルン州およびバーデン=ヴュルテンベルク州を中心とするドイツ9つの州と、オーストリアとイタリアからの捜査員も加え約3000人の捜査関係者が逮捕作戦に動員された。逮捕者の中には貴族、元連邦議会議員の他、退役および現役の軍人もふくまれていた[12]。また「ビタリア」という名のハインリヒ13世のロシア人ガールフレンドとされる人物も逮捕されたが、ハインリヒ13世は彼女を通じて3人のロシア人から資金提供を受けた疑いがあるとの報道もある[27][28]。
「帝国」はロシアとの協力を目論んでいたとされたが、在ベルリンロシア大使館広報はロシアのあらゆる関与を否定[25]、12月8日にはロシア大統領報道官ドミトリー・ペスコフがこのクーデター未遂事件へのクレムリンの関与を否定する声明を発表しているが[29]、その後もドイツ極右とロシアとの繋がりが指摘されている[30]。
2023年12月12日、ドイツ検察当局はハインリヒ13世・プリンツ・ロイスら容疑者27人をテロ組織結成、反逆準備などの罪で起訴したと発表した[31]。
関連項目
- カップ一揆 - 類似する動機をもつクーデター事件
- ミュンヘン一揆
- ドイツ社会主義帝国党
- 2022 Peruvian self-coup attempt - 同日にペルーで発生した政変
- 極右団体
- 陰謀論
- ディープステート
- 歴史修正主義
- ネオナチ
- ネット右翼
- Qアノン
- 2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件
- 2023年ブラジル三権広場襲撃事件
脚注
注釈
出典
- ^ a b c 「ドイツ、クーデター計画容疑で25人逮捕 議事堂襲撃を画策と」『BBCニュース』、2022年12月7日。2022年12月12日閲覧。
- ^ a b c Bennhold, Katrin; Solomon, Erika (2022年12月7日). “Germany Arrests 25 Suspected of Planning to Overthrow Government”. The New York Times 2022年12月7日閲覧。
- ^ 日本放送協会. “ドイツ政府転覆計画の衝撃 背景と目的は?”. 解説委員室ブログ. 2023年1月21日閲覧。
- ^ “ドイツで国家転覆図る 極右関係者ら25人の身柄拘束 主犯格の1人は貴族出身の71歳”. テレ朝news. 2023年1月21日閲覧。
- ^ “ドイツ「クーデタ未遂事件」の深刻な背景事情”. 東洋経済オンライン (2022年12月25日). 2023年1月21日閲覧。
- ^ a b “独極右 政府転覆計画 容疑25人逮捕 議事堂襲撃狙う”. 宮崎日日新聞. 一般社団法人共同通信社 (ベルリン: 株式会社宮崎日日新聞社) (第29414号): p. 5【国際・総合】. (2022年12月9日) 2022年12月11日閲覧。
- ^ “ドイツのクーデター未遂事件、誰が、なぜ、何を計画していたのか:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2022年12月26日). 2023年1月21日閲覧。
- ^ Hemmerling, Axel; Malak, Nadja; Junker, Monique; Kendzia, Ludwig; Wierzioch, Bastian (2022年12月7日). “Großrazzia: Gruppe soll Staatsumsturz geplant haben – Reussen-Prinz festgenommen [Large-Scale Raid: Group was Planning Coup – Prince Reuss Arrested]” (ドイツ語). Mitteldeutscher Rundfunk 2022年12月7日閲覧。
- ^ “ドイツのクーデター未遂、陰謀論と極右共鳴 民主主義試練(写真=ロイター)”. 日本経済新聞 (2022年12月12日). 2023年1月21日閲覧。
- ^ “Germany says it foiled a far-right coup plot. Here's what we know”. OPB (2022年12月7日). 2022年12月7日閲覧。
- ^ “71歳「ハインリッヒ13世」、ドイツでクーデター準備…「帝国臣民」の関与も捜査”. 読売新聞オンライン (2022年12月7日). 2023年1月21日閲覧。
- ^ a b c d Kirby, Paul (2022年12月7日). “Germany arrests 25 accused of plotting coup”. BBC 2022年12月8日閲覧。
- ^ Bock, Jürgen; Feyder, Franz (2022年12月7日). “Einsätze gegen Reichsbürger: Wenn frühmorgens Türen zerbersten [Deployments Against Reichsbürger: When Doors are Knocked Down Early in the Morning]”. Stuttgarter Zeitung. オリジナルの2022年12月8日時点におけるアーカイブ。
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- ^ “ドイツ「クーデター計画」極右組織に根強くはびこる「陰謀論」:熊谷徹 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト”. 新潮社 Foresight(フォーサイト). 2023年1月21日閲覧。
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- ^ “Razzia bei 'Reichsbürgern': Das ist der festgenommene Michael Fritsch aus Hannover [Raid on 'Reichsbürger': This is the Arrested Michael Fritsch from Hannover]”. Hannoversche Allgemeine Zeitung. (2022年12月7日). オリジナルの2022年12月8日時点におけるアーカイブ。
- ^ Oltermann, Philip (2022年12月7日). “Key figures behind alleged far-right plot to overthrow the German government”. The Guardian 2022年12月7日閲覧。
- ^ “【ドイツ】クーデター騒動の背後に100万人のウクライナ難民 集合住宅“放火事件”も(デイリー新潮)”. Yahoo!ニュース. 2023年1月21日閲覧。
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- ^ “【音声配信】特集「ドイツで起きた極右によるクーデター未遂事件。一体何が起きているのか」野島淳(朝日新聞ベルリン支局長)×板橋拓己(東京大学大学院教授)×荻上チキ×南部広美▼2022年12月12日(月)放送分 | トピックス”. TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~. 2023年1月21日閲覧。
- ^ “Ein 'Rädelsführer' und die 'Reichsbürger' in Thüringen [A 'Ringleader' and the 'Reichsbürger' in Thüringen]” (ドイツ語). Wirtschaftswoche. dpa. (2022年12月7日) 2022年12月7日閲覧。
- ^ “Festnahmen bei Reichsbürger-Razzia – Anführer der Gruppe aus Frankfurt” (ドイツ語). Hessenschau (Hessischer Rundfunk). (2022年12月7日)
- ^ a b c Connolly, Kate (2022年12月7日). “German police raids target alleged far-right extremists seeking to overthrow state”. Guardian 2022年12月7日閲覧。
- ^ “「ハインリッヒ13世」クーデター未遂、ドイツ全土で民兵組織化を計画…50か所に武器”. 読売新聞オンライン (2022年12月13日). 2023年1月21日閲覧。
- ^ “ドイツの「トンデモ・クーデター」未遂の深層…陰謀論とロシア工作と極右思想の親和性に警戒せよ”. FRIDAYデジタル (2022年12月15日). 2023年1月21日閲覧。
- ^ “ドイツでクーデター未遂を起こした極右テロ組織に、「ロシア関与」の疑いが(ニューズウィーク日本版)”. Yahoo!ニュース. 2023年1月21日閲覧。
- ^ “Allemagne : un coup d'Etat par un réseau terroriste d'extrême droite déjoué”. YouTube. LCI. (2022年12月8日) 2022年12月9日閲覧。
- ^ “独でロシア関係者が民意扇動か ウクライナ支援の弱体化狙う”. 共同通信. ベルリン: 一般社団法人共同通信社 / 株式会社ノアドット. (2023年1月10日) 2023年1月10日閲覧。
- ^ 「ドイツ検察、国家転覆計画した公爵家子孫ら27人起訴 陰謀論信じる」『朝日新聞デジタル』、2023年12月13日。2023年12月15日閲覧。