Octopus vulgaris

Octopus vulgaris
Octopus vulgaris
Octopus vulgaris
保全状況評価
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 頭足綱 Cephalopoda
上目 : 八腕形上目 Octopodiformes
: タコ目(八腕目) Octopoda
亜目 : マダコ亜目 Incirrina
: マダコ科 Octopodidae
亜科 : マダコ亜科 Octopodinae
: マダコ属 Octopus
亜属 : マダコ亜属 subg. Octopus
: O. (O.) vulgaris
学名
Octopus vulgaris
Cuvier1797
シノニム
和名
なし
英名
common octopus

Octopus vulgaris英語: common octopus, フランス語: Pieuvre, Poulpe de roche, スペイン語: pulpo común[1])は大西洋地中海に生息するタコの一種である[2]。長い間温帯から熱帯汎存種と考えられてきたが、隠蔽種の存在が指摘され[3]、現在では Octopus sinensisOctopus tetricus など複数種が認識され、Octopus vulgaris 種群には6種が含まれると考えられている[4][5]

記載

ジョルジュ・キュヴィエが1979年に Tableau Elémentaire de l’Histoire Naturelle des Animaux, 380. 中で記載した[6]。タイプ産地は西部地中海であると推定されている[6]。同時にこの著作において、本種はマダコ属 Octopus Cuvier1979タイプ種となっている[7]

形態

Octopus vulgaris

最大全長は雌が1.2 mメートル、雄が1.3 m[1]。体重は最大で10 kgキログラム、普通3 kg 程度[1]。地中海西部では、雄は外套長9.5 cmセンチメートルで、雌は13.5 cm で成熟する[1]

中型から大型で、全体的にがっしりとしている[1]は太く、腕ごとにほぼ等長等大である[1]。背側の一対の腕はやや短い[1]。雄の右第3腕は短くなり、先端が非常に小さな匙状の交接腕に変化する[1]。交接腕長に対する小舌の割合は2.5% 以下[1]。1つの半鰓 (demibranch) には9–11枚の鰓弁 (gill lamellae) を持つ[5]

類似種との識別

形態的に酷似するマダコとは、交接腕上の吸盤数がマダコでは119–152個なのに対し、本種では154–192個とやや多いことで識別される[4]。また、通常腕の吸盤数もマダコでは雄で207–273個、雌で223–276個程度と少ないのに対し、本種では雄で322–350個、雌で329–340個と多い[4]

また、かつて Octopus "vulgaris" type II と言及されていた南北アメリカ大陸の大西洋岸に広く分布する O. americanus は、1つの半鰓にある鰓弁が7–8枚と本種より少なく、本種では両性とももつ基部から15番目および19番目にみられる大きい吸盤を欠き、代わりに O. americanus には雄にのみ基部から7番目と8番目の吸盤が大きくなる[5]。また、生息域も O. vulgaris では100–150 m のやや深いところなのに対し、O. americanus では15–100 m 程度と浅い[5]

生態

砂質の海底に生息するO. vulgarisアルメリア

大陸棚の外縁から沿岸部にかけて生息し、海底の岩礁藻場、底質は岩場や砂質、泥質などの様々な環境に生育する[1][3]

非常に運動性が高く、活発に捕食を行う[8]。7 ℃ 以下では非活動的になる[1]。長く柔軟に動く8本のは、触覚化学受容機能、吸着能力を具えた吸盤列を持ち、腕の神経筋系は精巧な作業をこなす能力と非常に優れた柔軟性とを兼ね備えている[8]。大きく複雑な脳だけでなく、これらの適応的な神経筋の発達や精巧な感覚系を通じた環境との相互作用の働きがタコの複雑な行動を可能にしている[8]

頭足類は一般的に成長が早く、短命であると考えられており、オウムガイを除き、通常2年未満しか生きないとされていた[9]。しかし最近の研究からは、本種のガベス湾(地中海中央部、チュニジア)の個体群の99%は普通2年の寿命を持つことが分かっており、非常に稀であるが老齢な雄では3年2.5か月と3年5.7か月の個体が知られている[9]。タコの日齢は嘴の顎板(カラストンビ)に形成される、成長線と呼ばれる微細構造により推定される[10][11][12]

大西洋北東部、ガリシア沖における O. vulgaris の雌の成熟と産卵は12月から翌9月まで続き、春にピークがある[13]。地中海のサルデーニャ沖では成熟した雄が一年を通して見られるものの、2月か8月で特に多くなる[10]。未成熟や発達途中の雄は10月から1月に見られ、成熟期を過ぎた雄は8月に見られる[10]。孵化後約1年で成熟し、成熟時の日齢は雌で313±53日、雄で309±65日である[10]。成熟時のサイズは、ガリシア沖では雌で平均 1788 g、雄で平均 903 g で[13]、サルデーニャ沖では、雌で平均 1459.0±917.2 gグラム外套長 148.4±26.9 mmミリメートル)、雄で平均 1357.7±937.5 g(外套長 166.0±62.2 mm)という報告がある[10]

潜在的な産卵数は平均 221,447±116,031個、卵の長径は平均 3.0±0.8 mm、成熟した精莢数は平均 182±88個、長さは平均 48.8±10.6 mm[注釈 1][13]性比は普通1:1であるが、5月と9月では差が表れる[13]

本種の雌は何千個もの小さな卵を産み、卵が成長するまで卵塊を保育する[14]。卵を洗浄し、新鮮な海水を送り、保護する[14]。実際、雌の保育なしに孵化させると、菌類やバクテリアなどによる汚染により通常は正常に胚発生が起こらない[14]

孵化のピークは夏の終わりから秋にかけてであることが示唆されている[13]。孵化したばかりの漂泳性の仔ダコ(paralarva)の分布は海洋循環の影響を受ける[15]。本種のシチリア海峡で産卵する個体群は潮流の縁辺に集中することで、好ましい環境の海底に着底しやすくなっている[15]

寄生虫

ヨーロッパの本種から、回虫アニサキス Anisakis simplex の幼生の報告がある[16]。回虫類以外の線形動物も知られ、スペイン北西部の本種の消化腺と腸を取り囲む結合組織鞘からは魚線虫科の幼生が確認されている[16]

地中海に産する本種の腎嚢からはこれまでコノキエマ属の Conocyema polymorpha、ディキエマ属の Dicyema paradoxumDicyema typusDicyemennea 属のDicyemennea lameerei といった二胚動物が見つかっている[17]。これは日本近海のマダコにミサキニハイチュウ、トガリニハイチュウ、ヤマトニハイチュウといった異なる種のニハイチュウが見つかっていることと対照的である。

口や腹側の吸盤、咽頭、腎嚢などからは吸虫扁形動物)の Lecithochirium が報告されている[16]。また、バニュルスからは雌雄のキクロプス型カイアシ類、地中海からはカイアシ類 Pennella varians の幼生が知られる[16]

分類

かつては南北アメリカ大陸の大西洋岸、地中海からアフリカ大陸沿岸、インド洋ユーラシア大陸沿岸から日本にかけて広く分布すると考えられてきた[1]。しかし、これまで Octopus vulgaris と呼ばれてきたタコは、分子遺伝学的研究によって実際には生物地理学的に異なるいくつかの地域個体群からなり、よく似た形態を持つ種複合体を形成していることが明らかになった[18][19][4][20]。日本近海のマダコOctopus vulgaris と混同され、この学名で言及されてきたが、現在では別種とされ、マダコには Octopus sinensis d’Orbigny, 1841 の学名が用いられる[4]

Norman et al. (2014)O. vulgaris とされてきた種を次のように5型に分けた。

O. vulgaris 種群の分類は分子系統解析に基づき、整理されつつある。COI英語版 遺伝子による分子系統解析に基づく系統関係は以下の通りである[20][21][23][5]

O. hummelincki

O. mimus group

O. bimaculoides

O. mimus

O. maya

O. taganga

O. insularis

O. briareus

O. vulgaris group

O. tetricus

O. cf. tetricus

O. sinensis

O. americanus

O. vulgaris s.s.

O. "vulgaris" Type III

以下に Gleadall (2016)Amor et al. (2017) および Avendaño et al. (2020) に示されている O. vulgaris 種群の種名と分布を示す。

利用と文化

食用

スペインで食されるポルボ・ア・フェイラ

本種は地中海および大西洋の沿岸漁業で最も商業的に重要な軟体動物である[2]。非常に好まれ、商業的漁業だけでなく自給的漁業も支えている[1]。漁法はルアー餌木)、釣りhook and line[注釈 9])、蛸壺や罠漁、突き、長袋網 (fyke net) や三枚網 (trammel net)、(底曳網otter trawl)などで、水深20–200 m から漁獲される[1][25]。特にポルトガルアルガルヴェスペインアンダルシアガリシアイタリアサルデーニャギリシャのトラキア海(トラキア付近のエーゲ海)では小規模な沿岸漁業により盛んに漁獲される[25]

ピークである1960年代後半には、世界中で1年あたり100,000 t トン以上漁獲されていた[1]。以降落ち着き、1980年頃には20,000–30,000 t が漁獲されている[1]。西アフリカ沖でスペイン船が漁獲した非同定のタコ類の中にも本種が含まれていると考えられ、40,000–50,000 t が漁獲されている[1]

日本近海のマダコの減少により、ここ30年でモロッコモーリタニアから大量の本種 O. vulgaris が輸入され、乱獲により個体数の激減を招いた[4]

飼育

水族館で飼育される「タコのパウル

日本におけるマダコと同様、ヨーロッパ各地の水族館で多数の飼育例がある[26][27][28]ドイツオーバーハウゼンの水族館 Sea Life Oberhausen では、「タコのパウル (Paul der Krake)」と呼ばれる本種 Octopus vulgaris が飼育されており、2010 FIFAワールドカップ の結果の「予言」を行ったことでよく知られている[4]

本種は雌による卵の保育を行うため保育なしでの孵化率は低いが、実験室環境下で胚発生を正常に行わせることができる、完全にパラメータ制御された人工海水を用いた孵化システムが開発されている[14]

作品

2010年のドキュメンタリー映画『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』では南アフリカO. vulgaris が登場する。

脚注

注釈

  1. ^ Average±S.D.。S.D.は標準偏差を表す
  2. ^ Octopus insularis に内包される[23][5][24]
  3. ^ Gleadall (2016) では O. aff. vulgarisAmor et al. (2017) ではOctopus vulgaris type II と表記されていた。
  4. ^ Norman et al. (2014)Amor et al. (2015) では O. vulgaris Type IV と言及されていた。
  5. ^ Amor et al. (2017) により Octopus sinensisジュニアシノニムとみなされている。
  6. ^ Norman et al. (2014) により Octopus tetricusジュニアシノニムとみなされている。
  7. ^ Gleadall (2016) では O. aff. tetricus と表記される。
  8. ^ Gleadall (2016) では O. vulgaris (south) と言及される。
  9. ^ 延縄一本釣り、手釣りなど釣り糸と釣り針を使う漁法の総称。

出典

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参考文献

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関連項目

外部リンク

  • ウィキメディア・コモンズには、Octopus vulgarisに関するカテゴリがあります。
  • ウィキスピーシーズには、Octopus vulgarisに関する情報があります。