フリフリ・チキン

炭火で焼くフリフリ・チキン

フリフリ・チキンHuli-huli chicken)は、鶏肉直火焼きしたハワイ料理で、テリヤキ・チキンの一種である[1][2]。代表的な調理法は、鶏肉をに置くかに刺して、フリフリ・ソースhuli-huli sauce)という甘いタレを繰り返し塗りながら炎の上で直火焼きする[3]。なお、「フリ」(ハワイ語: huli)とは、「返す」あるいは「回す」(英語: turn)を意味する言葉である[4]。また、アメリカ合衆国において、"Huli-Huli" は米国パシフィック・ポウルトリー社の登録商標である(米国登録商標第958668号)[4]

歴史

フリフリ・チキンの歴史は、ハワイ島ヒロ出身のポルトガル系人アーニー・モルガド[注釈 1]日系人養鶏農家マイク・アサギ[注釈 2]が、1950年代半ば(1954年又は1955年)に養鶏農家の寄り合いにおいて、モルガドの母のレシピに基づく照り焼き風ソースで調理したチキン・バーベキューに始まるとされる[1][2][6][7]。それが好評だったのを受けて、二人はオアフ島エヴァ・ビーチ英語版に共同でパシフィック・ポウルトリー・カンパニーを設立し、モルガドの母のレシピによるソースと、バーベキュー用チキンの量産を始めた[6][7]。なお、最初のソースのレシピはモルガドの祖母のものであったと伝える文献もある[2]

モルガドはファンドレイザーの目の前でフリフリ・チキンを焼き始め、彼らが教会や学校でフリフリ・チキンを焼いては売るというスタイルで資金を集めた結果、モルガドの義理の息子によると、数年のうちに何百万ドルもの出資金が集まった[1]。ハワイでは何年もの間、フリフリ・チキンを焼く人の姿が見られた[8]

フリhuli)とは、ハワイ語で「回す」を意味する言葉である[9]。元祖フリフリ・チキンは、間に合わせのロティスリー英語版の串に刺さった複数の鶏肉を、「フリ!」の掛け声と共にひっくり返し、ソースを塗り、グリルするという調理法であった[2][10]。パシフィック・ポウルトリー・カンパニーは、1973年に "huli-huli" の商標を取得した[4][2][11]

モルガドはフリフリ・ソースのレシピで有名になり、ハワイ州の農業委員会委員になったり[12]、ポルトガルの名誉副領事に指名されたり[13]、ホノルル在住のポルトガル系移民コミュニティから賞を受賞したりした[1]。1986年にはフリフリ・ソースを瓶詰めにして、小売店で流通するようにもした[1][2]

2010年代になると、フリフリ・チキンは、格式の高いレストランからロードサイドの屋台、ミニマートやドライブインまで、ハワイ州のいたるところで見られるようになった[14][15]。そのようなところでは、多くの場合、網の上にたくさん並べられた状態で売られている[16]

調理法

モルガドはフリフリ・ソースのレシピを絶対に公開しなかったけれども、多くのシェフがその解明に取り組んでいる[2]

フリフリ・ソースのレシピとしては、パイナップル・ジュースケチャップしょうゆ蜂蜜又は黒砂糖胡麻油しょうがにんにくなどを材料とするレシピがいくつか見られる[3][2][10][17][8]レモン・ジュースウースター・ソースシラチャー・ソースを必要とするレシピもある[10]。そのほか、砕いた乾燥赤唐辛子英語版[2]米酢又はシェリー酒由来のヴィネガー英語版[17]チキン・ブイヨン白ワインマスタードを入れるレシピもある[18]。フリフリ・ソースをつける前に塩水漬け英語版して下味をつけるレシピもあり、その場合、漬け汁にコーシャソルト英語版、砂糖、ローリエ、にんにく、胡麻油、タイムなどを使う[17][19]

直火焼きの方法は、網焼きでも串焼きでもよい。焼いている最中に、何度も「返し(huli)」を行い、ソースを塗る(この、加熱途中にソースなどで食材を湿らす工程を英語圏ではベイスティング英語版と呼ぶ)[19]。むかしは、香りつけのためにメスキート英語版の木切れで起こした火の上で焼いた[3]。メスキートは、北アメリカ大陸メキシコの乾燥地帯原産の低木であり、ハワイにおいては外来種又は侵入種にあたり、「キアヴェ」(kiawe)と呼ばれる。

フリフリ・チキンの主要な材料となる鶏肉は、ニワトリセキショクヤケイの交雑種から得られるものである。セキショクヤケイは、100年以上前にポリネシア人がハワイに持ち込んだ種であり、一部が野生化している。野生化したセキショクヤケイはハワイの島々を自由に歩き回っており、他の鳥類と同じく、州法により保護されている。人間が集住する地区に迷い出てきてしまった場合は食料にされるが、動物愛護協会の施設で安楽死させられる場合もある[20]

注釈

  1. ^ アーネスト・モルガド(Ernest Morgado, 1917-2002)は、ヒロ (ハワイ州)出身のポルトガル系人[1][2]。第二次世界大戦中は、アメリカ海軍情報局の情報将校であった人物[1]
  2. ^ ミキオ・アサギ(Mikio "Mike" Asagi)は、オアフ島で1935年から家族経営で養鶏を始めた養鶏家[5]

出典

  1. ^ a b c d e f g Lum, Curtis (2002年11月7日). “Huli-Huli chicken creator Ernest Morgado dies at 85”. The Honolulu Advertiser. 2017年7月14日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j Heckathorn, John (2009年6月5日). “Turn! Turn! Turn! How to make Huli-Huli Chicken.”. Hawai'i Magazine. 2017年7月14日閲覧。
  3. ^ a b c Huli Huli Chicken”. Cook's Country (2009年6月). 2017年7月14日閲覧。
  4. ^ a b c 米国登録商標第958668号公報
  5. ^ about asagi’s”. Asagi Hatchery. 2017年8月15日閲覧。
  6. ^ a b Ronck 1995, p. 228.
  7. ^ a b “The Companies We Keep”. Hawaii Magazine 21: 49. (2004). https://books.google.com/books?id=eW7xAAAAMAAJ&q=Ernest+Morgado+huli+huli+chicken&dq=Ernest+Morgado+huli+huli+chicken 2017年7月16日閲覧。. 
  8. ^ a b Barron, Natania (2012年8月16日). “Eat Like a Geek: Huli Huli Chicken!”. Wired. 2017年7月15日閲覧。
  9. ^ Mishan, Ligaya (2012年3月19日). “Lani Kai”. The New York Times. 2017年7月14日閲覧。
  10. ^ a b c Rabine, Rob (2017年7月13日). “Recipe — Huli Huli chicken, a trip to the tropics”. Shoreline Times. Hearst Media Services Connecticut. 2017年7月14日閲覧。
  11. ^ Morales, Manolo (2014年11月10日). “Noh Foods sued over 'Huli-Huli' trademark infringement”. KHON2. Nexstar Broadcasting. 2017年7月14日閲覧。
  12. ^ United States. Federal Highway Administration (1979). FAP-51, Hanamaulu-Ahukini Cutoff Road, Kauai: Environmental Impact Statement. p. F-28. https://books.google.com/books?id=IqY1AQAAMAAJ&pg=SL6-PA28 2017年7月14日閲覧。 
  13. ^ Tiym Publishing Company 2005, p. 181
  14. ^ Kessler 2012, p. ?
  15. ^ Nabhan 2006, p. 193
  16. ^ Pomai (2013年4月6日). “Hoku’s "Huri Huri" Chicken”. Tasty Island Honolulu Food Blog. 2017年7月15日閲覧。
  17. ^ a b c Fieri, Guy. “Huli Huli Chicken on the Grill”. Food Network. Scripps Networks. 2017年7月14日閲覧。
  18. ^ Carruthers, Valenciana & Scholl 2016, p. 160
  19. ^ a b Raichlen 2003, pp. 389–392?
  20. ^ Are feral chickens are protected? If so, Why?”. Hawai'i Department of Land and Natural Resources (2003年5月7日). 2017年7月13日閲覧。

参考文献等一覧

関連項目