マッド・ハイジ
マッド・ハイジ | |
---|---|
Mad Heidi | |
監督 |
ヨハネス・ハートマン サンドロ・クロプフシュタイン |
脚本 |
サンドロ・クロプフシュタイン ヨハネス・ハートマン グレゴリー・ヴィトマー トレント・ハーガ |
原作 | ヨハンナ・シュピリ |
製作 | ヴァレンティン・グルタート |
製作総指揮 |
テロ・カウコマー スコット・キャメロン・ペディゴ ラーズ・リエン |
出演者 |
アリス・ルーシー デヴィッド・スコフィールド キャスパー・ヴァン・ディーン |
音楽 | マリオ・バトコビッチ |
撮影 | エリック・レーナー |
編集 |
ジャン・アンドレッグ クラウディオ・セア アイザイ・オズワルド |
製作会社 | A Film Company GmbH |
配給 |
SWISSPLOITATION FILMS HARK = S・D・P |
公開 |
2022年11月24日 2023年7月14日[1] |
上映時間 | 92分 |
製作国 | スイス |
言語 |
英語 スイスドイツ語 |
『マッド・ハイジ』(原題:Mad Heidi)は、2022年公開のスイスのアクションアドベンチャー映画。
2022年9月7日にブリュッセル国際ファンタスティック映画祭で初上映され、観客賞を受賞した[2]。また、チューリッヒ映画祭2022では特別招待作品として上映された[3]。ドイツとオーストリア、スイスでは2022年11月24日に劇場公開され、同年12月8日にはウェブサイトで配信が開始された[4][5]。日本では2023年7月14日に公開された[6]。
監督はヨハネス・ハートマン、サンドロ・クロプフシュタイン。
キャッチコピーは「教えておじいさん、復讐の仕方を!」。
概要
ヨハンナ・シュピリによる古典的な児童文学『アルプスの少女ハイジ』を基に、スイス初のエクスプロイテーション映画として実写映像化[7]。
のどかなアルプスの暮らしを描き、ファミリー映画として2015年に同国により製作・公開された『ハイジ アルプスの物語』を逆手に取り、暴力的でゴア描写満載なR18+指定の作品へと再構築しただけでなく、ホラー的要素やコメディ要素を含んでいる。言わば、ハイマートフィルムというジャンルのパロディ作品でもある。
チーズとチョコレートを食べることを強制するファシスト政権に支配されたディストピアのスイスを舞台に、恋人のペーターと家族を殺害した独裁者のマイリから母国を解放するために奮闘するハイジを中心とした物語を描く。スイスの文化や歴史、民俗学、そして、70年代と80年代のエクスプロイテーション映画からインスピレーションを得ている[8]。
タイトル・ロールとなるハイジ役をアリス・ルーシーが演じ、アルペヒ役でデヴィッド・スコフィールド、そして、マイリ大統領役でキャスパー・ヴァン・ディーンが出演する[9]。
あらすじ
ハイジは彼氏のペーターとおじいさんのアルムと一緒に山で暮らしていた。ペーターは、スイス大統領でチーズ王でもあるマイリに自分のチーズを売って商売の邪魔をし、独占企業のCEOとしての顔も持つマイリの機嫌を損ねてしまう。罰としてペーターはクノール司令官によってハイジの目の前で処刑され、ハイジは山奥の女子刑務所に連行されてしまう。
そこで彼女は、残酷なスイス式レスリング大会に参加するために、独占企業マイリのチーズを食べさせられ、強くなることを余儀なくされる。ハイジは同房のクララに支えられながら、政権に反抗的なアマゾネス戦士となり、チーズファシストたちに止めを刺そうと決心する[3][10]。
キャスト
※括弧内は日本語吹替
- ハイジ - アリス・ルーシー(内田真礼[9])
- アルムおんじ - デヴィッド・スコフィールド(早川毅[11])
- マイリ大統領 - キャスパー・ヴァン・ディーン(峰晃弘[11])
- フロイライン・ロットワイラー(Fräulein Rottweiler) - Katja Kolm (de)
- ペーター - ケル・マツェナ(真木駿一[11])
- クララ - アルマル・G・佐藤(久保ユリカ[9])
- クノール司令官 - マックス・ルドリンガー (de) (山本満太[11])
- Cheesemaster Kari - Werner Biermeier (de)
- Dr. Schwitzgebel - パスカル・ウリ
- Lutz - Rebecca Dyson-Smith (de)
- Meilis Dienerin - ミロ・モアレ
- ヨーデル歌手 - イヴ・ヴュートリッヒ
- 日本語吹替版スタッフ
- 翻訳:橋本有香里
- 演出:市来満
製作
この映画は、Schweizer Radio und Fernsehenの関与を得て、フィルム・カンパニーによって制作された[3][4]。国際的な配給はスイスプロイテーション・フィルムズが担当した[3]。著作権については本作品の製作国であるスイスでは1976年に保護期間が終了し[12]、既にパブリックドメイン化されていたことから問題なかったとしている[13]。
製作費に関しては主にクラウドファンディングを利用し、19カ国538名の投資家から約200万スイスフラン(日本円で約2億9000万円)を調達した[13]。フィンランドのプロデューサーであるテロ・カウコマーは以前、クラウドファンディングを通じて『アイアン・スカイ』(2012年)の資金を集めたことがあった[14][15]。
エリック・レーナーが撮影監督を務め、編集はジャン・アンドレッグ (de) とクラウディオ・セア、アイザイ・オズワルドが担当した。また、音楽はマリオ・バトコビッチ、衣装デザインはニナ・ジョーン、プロダクション・デザインはミリアム・ケイリンが担当した[16][17]。テコンドーの黒帯を持つイギリス系カタルーニャ人の女優のアリス・ルーシーにとって、本作が長編映画デビュー作となった[14]。もともと、Jessy Moravec (de) がタイトルロールのハイジ役を演じる予定であった[18]。
タイトルについては当初『ハイジランド』にする予定だったが、同名の観光施設が存在することが判明し、同施設から法的措置も示唆されたため、本タイトルになった[13]。また、スイス伝統衣装協会が本作品に登場する衣装に反発して、衣装デザインを担当していた同協会の会員を追放したり、日本のテレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』の楽曲使用を権利元から拒否される一幕もあった[13][19]。
撮影
撮影は、2021年9月17日から10月26日まで27日間にわたってスイスで行われた[16]。撮影場所には、ブルクドルフやエルラッハ、エングストリーゲンアルプ、バレンベルク野外博物館などが選ばれた[18]。
評価
Filmstarts.deでLutz Granertは、5つ星のうち3つ星を付け、「ギャグの幅がもう少し広ければよかったのにと思いつつも、しばしば様々な映画への仄めかし的な言及が多いので楽しい映画である」と指摘している[14]
Sandro Götzはoutnow.chで、この映画は開始1分から楽しませてくれて、グランドフィナーレまで目を離させないと語っている。また、「この映画はスイスに関する面白いギャグや決まり文句に満ちており、孤立したスプラッターシーンが嫌悪感を誘うとしても、誤った王政や誇大妄想のパロディにもなっている」と言及している[10]。
Michael SennhauserはSchweizer Radio und Fernsehenのサイト上で、この映画は確実に期待に応え、その結果、エクスプロイテーション映画の中心的な側面を実践していると書いた。加えて、「最も驚くべきことは、自然でカジュアルな多様性です。これが光沢のある作品よりも目立たないのは、ゴミのようなエクスプロイテーション映画が常に地震学的に機能してきたことと関係があるだろう。すなわち、観客に彼らが望むものを与えているが、メッセージ性はありません」とも指摘している[4]。
一方、セバスチャン・セイドラーは、オンライン版のDie Zeit紙で、この映画を「耐え難いほど陳腐で予測可能」であり、「最も陳腐なファンサービスで、現在のマーベルのスーパーヒーロー映画とは見た目も仕草も異なるが、既製品と同じ」と批判している。また、「胸、お尻、腸」のほか、「刑務所のゴミ、ナチスの戯言」などがノンストップで登場すると指摘している[20]。
Rouven Linnarzは、film-rezensionen.deで「アクションとコメディが融合した非常に面白いエクスプロイテーション映画」と10点満点中7点を付けた。そして、「ハートマンとクロプフシュタインの、このジャンルに対する大きな愛情を、映画のすべてのショットに見ることができ、素晴らしい主演女優に加え、この作品には、娯楽的で血生臭い、愉快な瞬間がたくさんありました」と称賛している[21]。
ウィーン新聞のMatthias Greuling (de) によると、この作品は「完璧なトリックと素晴らしい映像、シンプルだが効果的なマーケティングコンセプト、チーズが滴るほど誇張されたキャラクター、そして、この国のエゴに歪んだ鏡を突きつけるスイスのイメージで輝いている」とのことである[22]。
本作は奇しくも日本での公開日がテレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』の製作に携わった宮崎駿が監督を手掛けている『君たちはどう生きるか』と同じだった。そのため、東京で行われた公開前夜祭において、記者から宮崎へのメッセージを求められたサンドロ・クロプシュタインは「宮崎監督がスイスのハイジというキャラクターを日本から“逆紹介”してくださったことをうれしく思うと同時に、ありがとうと伝えたい」「新作が成功しますように」とエールを送り、ハートマンも「ぜひ『マッド・ハイジ』を観てください」と呼びかけた[23]。
公開
日本
日本では2023年7月14日に公開[6]。日本語吹き替え版も製作され、内田真礼、久保ユリカなどの人気声優が顔を揃えた[9]。
日本での映画配給を担当しているハークとS・D・Pは当初R15+での公開を検討していたが、映画倫理機構(映倫)が定めるレイティングシステムを適用すると随所で画面一杯にぼかしが入り、鑑賞に支障が出る恐れがあるため、やむを得ずR18+とした。しかし、本作品の好調もあり、観ることが出来ない高校生からR15+版の上映を要望する声が殺到したため、東京・新宿武蔵野館限定でぼかし修正入りのR15+版(字幕版のみ)の上映を2023年8月4日から行うことを同月1日に発表した[24][25]。
受賞歴
年 | 式典 | 部門 |
---|---|---|
2022 | ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭 | 観客賞 |
トリエステSFフェスティバル | ||
Vancouver Horror Show | 最優秀長編映画賞 |
映像ソフト
2023年12月22日にハークよりBlu-rayが販売。日本語吹替版の他、メイキングを収録[26]。
脚注
- ^ “あの「ハイジ」がバイオレンス映画に『マッド・ハイジ』7月公開決定!吹替版予告も解禁”. CinemaCafe.net. (2023年4月19日) 2023年4月24日閲覧。
- ^ “映画「マッド・ハイジ」ウェブ公開、 業界の風雲児となるか?”. swissinfo.ch (2022年12月10日). 2023年4月25日閲覧。
- ^ a b c d “Mad Heidi”. zff.com (2022年11月19日). 2023年4月25日閲覧。
- ^ a b c “«Mad Heidi»: Herzblut und Kunstblut”. srf.ch (2022年10月2日). 2022年11月20日閲覧。
- ^ “Mad Heidi: The first Swissploitation film”. madheidi.com. 2023年4月25日閲覧。
- ^ a b “マッド・ハイジ : 作品情報 - 映画.com”. 映画.com. 2023年4月25日閲覧。
- ^ “R指定版ハイジ『マッド・ハイジ』公開決定 ─ ペーター処刑、おんじ爆死?ここ最近で一番メチャクチャな予告編”. THE RIVER. (2023年4月19日) 2023年4月24日閲覧。
- ^ “「アルプスの少女ハイジ」が邪悪な独裁者に復讐を誓う!映画『マッド・ハイジ』が7月14日に日本公開決定 予告編も解禁”. IGN Japan (2023年4月19日). 2023年4月25日閲覧。
- ^ a b c d “内田真礼&久保ユリカがハイジとクララに!18禁『マッド・ハイジ』吹き替え版上映決定”. シネマトゥデイ. (2023年6月6日) 2023年6月6日閲覧。
- ^ a b Sandro Götz (2022年10月3日). “Filmkritik: Hei-ei-eidi”. outnow.ch. 2022年11月20日閲覧。
- ^ a b c d 『マッド・ハイジ』日本語公式サイトキャスト情報より
- ^ 原作者のヨハンナ・シュピリが1901年に死去。スイスの著作権法では作者が死去してから75年経過すれば自動的に公共の財産(パブリックドメイン)となる。
- ^ a b c d 壬生智裕 (2023年7月14日). “名作「ハイジ」が激変、著作権切れ作品のその後”. 東洋経済新報. pp. 2-3. 2023年7月17日閲覧。
- ^ a b c Lutz Granert. “Kritik zu Mad Heidi: So habt ihr eure Heidi noch nie gesehen”. Filmstarts.de. 2022年11月19日閲覧。
- ^ “«Mad Heidi» – ein Genrefilm voller Käse, Schoggi und Schweizerkreuzen”. watson.ch (2022年10月3日). 2022年11月19日閲覧。
- ^ a b Template:Crew united Titel
- ^ “Mad Heidi”. filmdienst. 2022年11月19日閲覧。
- ^ a b Marcel Schmid (2021年9月24日). “Mad Heidi: Ungewöhnliches Finanzierungsmodell ermöglicht dem unkonventionellen Heimatfilm den Drehstart!”. whatthefilm.ch. 2023年4月25日閲覧。
- ^ “聖なるハイジになんてことを… 「マッド・ハイジ」“お叱り”秘話 一番怒ったのは誰?”. 映画.com (2023年7月13日). 2023年7月20日閲覧。
- ^ Sebastian Seidler (2022年11月23日). “Wenn dem Geißenpeter der Kopf platzt”. zeit.de. 2022年11月23日閲覧。
- ^ “Mad Heidi”. film-rezensionen.de (2022年11月24日). 2022年11月25日閲覧。
- ^ Matthias Greuling (2022年11月25日). “Mad Heidi sucht die Berge heim”. Wiener Zeitung. 2022年11月26日閲覧。
- ^ “ぜひ「マッド・ハイジ」を観てください、18禁スイス映画の監督が宮崎駿にメッセージ”. 映画ナタリー (2023年7月13日). 2023年7月17日閲覧。
- ^ “高校生も「マッド・ハイジ」を観られる、修正ありR15+版の上映が実現”. 映画ナタリー (2023年8月1日). 2023年8月2日閲覧。
- ^ “『マッド・ハイジ』ぼかし入りR-15版上映が決定 8月4日から”. cinemacafe.net (2023年8月1日). 2023年8月2日閲覧。
- ^ @madheidi_jpの2023年11月22日のツイート、2023年11月22日閲覧。
関連項目
- プー あくまのくまさん - 本作品と同じく著作権切れにより製作された映画として、日本ではほぼ同時期に公開された。
- 乳糖不耐症 - 映画中のスイスに乳糖不耐症の国民はいないとされている。
外部リンク
- 公式ウェブサイト(ドイツ語)
- 公式ウェブサイト(日本語)
- 映画『マッド・ハイジ』 日本公式 (@madheidi_jp) - X(旧Twitter)
- マッド・ハイジ - IMDb(英語)